松沢呉一のビバノン・ライフ

古い女言葉はギャグに—女言葉の消滅 3-[ビバノン循環湯 182] (松沢呉一) -3,938文字-

 

「〜わ」はギャグに

 

vivanon_sentence前回の最後に出てきた二一歳の女性はケンカした時の言葉もすさまじい。「チンコ切って出直してこい」「チンコ切ってネックレスにしてぶらさげて歩くぞ」「ケツにウンコ残してんじゃねえよ」「でっかいウンコしすぎてケツの穴切れてんじゃねえの」「このあばずれが」といった言葉を乱射したあと、「こんな汚い言葉で、私、やんなっちゃうわ」と呟いた。

今回の取材で女言葉としての「わ」を使ったのは彼女だけであった。最も激烈な罵倒言葉を口にした彼女は、同時に最もきれいな丁寧語、女言葉を使った人物でもあり、彼女の「わ」は男でも使う「わ」、方言としての「わ」、ふざけた「わ」ではない。

「使い分けてるというより、渾然一体となっているんです」

女王様に向いているかも。乱暴な言葉を使うのが得意な女王様たちだが、ふだんは丁寧な言葉遣いの人が多いのだ。

これ以外の全員が、「〜わ」「〜だわ」という言葉遣いを日常では使わないと言い、「“わ”って使わない?」と聞いたら、「ハハハ、“そうだわ”だって。そんなの絶対使わないよ」「そんなのヤダー」と小娘たちに何度も笑われた。こんなことだけで笑われるとは。

「ギャグとしては使う」(十八歳・高校生)

「古い世代の人と話す時だけ使う」(十九歳・大学生)

「男に媚びるために女っぽく話すことはあるけど、それでも“わ”は使わない」(十九歳・フリーター)

中学生集団の母親たちは、だいたい私と同じくらいの世代で、「お母さんは使う」(十五歳・中学生)と言うのもいたが、「母親も使わない。それってオカマ言葉だよ」(十四歳・中学生)と言っているのもいた。そう言われてみると、私の同世代であっても「そうだわ」なんて言っているのは、いないわけではないが、相当に少ない。

男も使う「じゃあ行くわ」といったような「わ」は使うが、女言葉としての「そうだわ」「そうだわね」「そうだわよ」の「わ」「わね」「わよ」は完全に死語の域に入りつつあるようで、「そうよね」も使わないというのが多かった。「そうよね」よりは男も使う「そうだね」を使い、さらに「そうだよな」「そうだろ」までが使われ、「やるぞ」「行くぞ」といった「ぞ」までが使われるようになってきている。

中には、「そうよ」と試しに言ってみて恥ずかしがっている女子高生もいた。口にするのさえ恥ずかしい言葉になっているらしい。女言葉を使わせる羞恥プレイ。

 

女言葉は高年齢の人たちの頭の中にあるだけ

 

vivanon_sentence女言葉はすでに「彼氏の前では計算で使うだけ」(二一歳・会社員)といったように、「媚びる」「いい子ぶる」ための道具としてしか存在しておらず、自分自身の言葉としての女言葉などどこにもなくなってしまいつつある。一人称を除けば、「男とまったく同じだと思う」(二十歳・会社員)(十四歳・中学生)という意見が正しく現実をとらえていて、もはや女性言葉は新宿二丁目で大事に保存されているだけのようである。

これに関し、私の友人の女性(二一歳)が鋭い指摘をしていた。

「よく雑誌を読んでいて、街頭の取材で、女の子が“なんとかだわ”とか言っていたりするじゃん。あれって本当は取材なんてしてないよね。オヤジが頭ん中で書いてるんだよ、きっと」

 

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