松沢呉一のビバノン・ライフ

給食費の未払いも、少年犯罪も増えていない—不良少年の怪奇手帖が語る昭和初期の性犯罪-[ビバノン循環湯 184] -(松沢呉一) -3,009文字-

正確な記憶ではありませんが、先に「スナイパー」の連載で「変態資料」について取り上げて、そのあと、「東スポ」の連載で、電車の強姦事件にからめて、その中のエピソードについて再度取り上げたんだったと思います。そのふたつを合体させておきました。

この頃(2006年)、給食費の未払いが急に問題視されるようになっていて、データを確認したら、増えている事実はありませんでした。また、滋賀県で起きた電車内の強姦事件を受けて、「こんな事件は前代未聞」と思っても、たいていの事件は過去に類似した事件が起きていると指摘。「だから、たいした事件ではない」と言いたいのではなくて、事実としての指摘です。

「スナイパー」では、この時期の「変態資料」に連載されていた綿貫六助の男色小説も取り上げており、これがまた注目すべき内容なのですが、そっちはまた別の機会に。

 

 

 

少年犯罪も年少者の自殺も増えているように見せたい人たち

 

vivanon_sentenceひどい世の中である。給食費を払わない親がいる。いじめによる子どもらの自殺も激増。少年犯罪も増え続けている。さらには、鉄道の中で公然と強姦される事件まで発生。安心して電車にも乗れない時代になっているのだ。こんな危険な国になったのは、日本の歴史始まって以来のことだろう。ああ、いったいこの国はどうなってしまうのであろうか。

なんて考えているバカな子どもはおらんかあ〜(なまはげ風に)。

子どもに限らず、世の中の人たちは、ロクに調べずに、こういうことを言いたがるのな。むしろ昔を知っているはずの大人こそがこういうことを言いたがる。つまりは「昔はよかった」と言いたいだけなのである。

よく考えてもみよ。ワシらが子どもの頃(昭和三十年代から四十年代)は、日本中が今よりずっと貧乏で、給食費を払えない子どもが必ずと言っていいくらいクラスにいた。実のところ、文科省のデータを詳細に見ると、給食費の未払いが増えているなんて数字はどこにもない。

時代の切り取り方によってそう見せてしまうことはできるのだが、冷静にその数字を分析すれば、どう考えても減っている。メディアの人たちは元データをちゃんと見ておらず、文科省の発表通りに記事を垂れ流しているのだ。

また、「少年犯罪は決して増えていない」という話もいろんな人が指摘済みで、現実には、ここ数年少年犯罪は減少している。

子どもの自殺が増えているように見えるのは、1978年以降のデータを元にしているからだ。昨年はたしかに増えたが、これは自殺をメディアが煽り立てたためとも思われる。それ以前のデータまで調べると、今よりずっと子どもらは自殺していて、人口比で見ると、今の数倍自殺しているのである。

いじめにしても、国際的なデータを見ると、日本は決して多くない。それで十分だとは言わないが、国際比較としては、日本の教師たちはそこそこうまくやっている。

なのに、なぜ政府はいかにもこの国が年々悪くなっているようなことを言いたがるのかと言えば、その方が予算をとれ、国民を管理しやすいからだ。警察は少年犯罪が増えているように見せかけて、若い世代の職質や持ち物検査を堂々とできる。文科省は学校や教師に責任を押しつけて管理を進められる。

そして、メディアはその真意を見抜くこともできず、情報を垂れ流し、国民は善意からこれをバックアップする。

犯罪はよくない。自殺もよくない。できるだけ減らすべき。適切な対処をするためにはまず事実を冷静に見据えることが必要である。

 

 

性犯罪コレクターの少年の手帖から

 

vivanon_sentence列車の中の強姦事件ばかりはさすがに昔はなかっただろうと思うわけだが、これも戦前からあったことだ。

以下は雑誌「変態資料」第三巻第一号(昭和三年)に掲載された新聞記事。

 

 

十四日午後八時頃京都発名古屋行き上り二十六号列車の乗客宇都宮市茂登町二四木村又五郎(三二)は附近に居合わせた岐阜市元町七丁目四方田治三郎娘ミツ(一三)を引捉へて列車が四輪車で傍らに人なきを幸ひ暴力を用ひて捻倒し凌辱を加へた上又五郎は川瀬にて前の客車に乗換へ知らん顔をしてゐたがミツが右の旨乗務員に訴へ出たので米原駅で車中を捜索の結果発見され米原署に突出され黙過取調中。

 

 

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