他人が自分と同じじゃないと不安になるムラ思考—なぜ他者の性を否定しないではいられないのか 5-(松沢呉一) -2,899文字-
「自分しか愛せない人たち—なぜ他者の性を否定しないではいられないのか 4」の続きです。
他人がどうしようと自分は自分でいればいいだけ
なにより他者に同調することが求められ、はみ出すと制裁されるムラ社会の日本では、しばしば「わがまま」「エゴイスティック」「利己主義」「協調性がない」といった悪い意味合いで使用される「個人主義」ですが、個人主義は、それぞれに幸福を見いだし、追求してよく、それぞれに自立して、他者に介入をしないということであって、むしろエゴは「私」と「他者」を同化して、他者を「私」に服従させようとする人たちのことでしょう。まさにムラの道徳に従順な人々です。
同性愛についても、昔っから私は「理解なんてしなくていい。ほっとけ」という言い方をしていて、「理解して欲しい」と主張してきた同性愛者から「そういう言い方があるかと目からウロコだった」と言われたことがあります。こんなことで驚かれた私の方が驚きました。
理解できることは理解した方がいいし、理解できることには口出しするのもありですけど、理解できない人が口出しをするからおかしなことになります。
いろんな性のありようをすべて理解することなんてできんでしょ。世界のすべての言語を理解することが不可能なのと同じで、理解しようとしても、理解しきれないことが前提。理解できないことはほっとけばいい。無関心でいることもまた賢明な選択です。
理解しきることができない存在として、他者の選択を尊重すればいい。理解できるところだけでつきあえばいい。あるいは理解できなくてもつきあえばいい。
「私」と「他人」は違う。その違いを全部理解しようとするから無理が出るのであって、「私」を基準に、あるいは「ムラ」を基準に、他人を理解した気になったり、その選択を否定する人たちは最悪。個人主義の敵。日本語しか知らないくせに、他言語を使う人たちを貶めることがどうしてできるのかって話。
※台湾で撮った写真がいっぱいあるので、無理矢理使ってみました。
自分の信じるセックスをやっていればよかろうに
花房観音さんも書いているように、もし自分のセックスに充足しているのであれば、わざわざ他者の性のありようを否定する必要がありません。同性婚のような婚姻関係、売防法のような法律の問題であれば社会の制度ですけど、「どんなセックスが気持ちいいか」は個人で決定していい問題です。
男と男、女と女がセックスをすることを自身で決定していい。生まれつきかどうかを問わず、決定していい。愛があろうとなかろうと決定していい。
また、そうしないことも決定していい。結婚する決定も、結婚しない決定も個人がしていい。
理解できなくてもいいんです。ほっとけ。
しかし、制度としては同性の結婚が許されないのだから、その決定が許されていない。そこを改善すべきです。まさにこれは人権の問題。
改善すべきは、他者の性のありようではなくて、さまざまな個人の選択を許さない制度であり、それを維持しているのは「私は私」「私と他人は別」という発想ができない人たちです。
選択肢が増えるだけ
誰も「全員が同性とセックスすべし」「異性の結婚は禁止すべし」なんて主張はしていないのだから、他人が同性とセックスしようと、自分は異性とのセックスを実践すればいいだけのことだし、同性婚が実現しても、異性と結婚する自分はなんら侵害されません。
同じくAVに出て気持ちよくなっている人がいても、自分にはできないのであれば、愛のあるセックスとやらを一生やっていればいい。一夫一婦制度にしがみつき、それ以外を受け入れないのも自由。オナニーさえも姦淫だとして封じていればいいでしょう。個人主義の立場からは「どれもこれもどうぞご自由に」です。
しかし、「個」に留めておくことができない人たちがいます。自分で決定すればいいことを自分で決定ができないので、社会に決定してもらいたがる。自分で決定していいということは自分で決定しなければならないということ。それができない人たちが存在しています。
個人で基準を作れず、個人で決定できない。だから、神やムラの道徳に依存し、社会に規定してもらいたがり、自分と違う他者、理解できない他者を潰したがる。情けない。
※台北の同性婚支持のコンサートでは紙の配布物が少なかったと書きましたが、台北医科大学付属病院の前に落ちていたビラに書かれていた言葉に目を奪われ、思わず写真を撮りました。両親などの年長者に向けて、「同性婚の法案が通っても、あなた方への愛は変わりません」というメッセージが書かれています。そう、何も変わらない。ただ、選択肢が増えるだけ。
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