本当の自分と本当の自分—結婚してすぐに風俗嬢になった彼女の事情-[ビバノン循環湯 195] (松沢呉一) -7,349文字-
「不倫、露出、SM…溢れ出る欲望の処理方法」に「エロ下着を店に用意している既婚風俗嬢」のことをチラリと書きましたが、その原稿が出てきました。「女は愛がないセックスは気持ちがよくない」なんて言って、「あるべき女像」を他者に強いるするようなバカがいるので、そういう自分を晒すための場が必要になる人たちがいるわけです。それが性風俗産業の役割のひとつ。
この原稿はもともと相手の承諾を得て書いたものではなく、十年以上経ってからメルマガ読者限定のEvernoteで初公開したものだったはず。店もとっくにないので、もう出してもいいだろうと判断してのことですが、それでも個人が特定されかねないことは伏せてます。
長いですけど、後半はエロ描写が延々続くので、一度に出します。
写真はつい最近恵比寿で撮ってきたものです。
週に一回だけ出勤の謎の美女
恵比寿にある店で体験取材することになり、打ち合わせがてら店に立ち寄った。恵比寿には老舗のヘルスがある程度で、風俗街としての認知はないに等しいが、実のところ、穴場なのだ。
渋谷に職場があったり、渋谷で遊んでいたりすると、渋谷の店では働きにくい。かといって、遠くまでは行きたくない。そこで恵比寿である。そのため、いい人材が集まりやすい。とくにこの店は、実年齢がちょい高めで、二十代半ばから後半にかけてのきれいなおねえさんタイプが揃っている。
店長は別の店にいる時からよく知っている人物で、「取材は誰がいいですか」と聞いてくる。こういう場合にどうするのかは店によってさまざまで、店として売り出したいコを指定してくることが多いのだが、こうやってこちらの希望を聞いて、相手と交渉してくれる店もある。
この店には銀座のクラブで働いていた元ホステスさんがいた。その体験から来る客あしらいがうまくて、会話が抜群に楽しい。彼女の了承を得て、客でついた際に彼女から聞いた銀座の話は何度か原稿に使わせてもらった。
気心も知れているし、サービスもしっかりしているので、今も在籍していたら、彼女がベストだったんだが、突然彼女は退店してしまった。たぶん水商売に戻ったのだと思う。
改めて在籍者の写真を見ると、見慣れた顔は一人もいない。知らない顔ばかりの中に、一人、目立つのがいる。他の写真は店長が店で撮った写真だろうが、彼女はスタジオで撮ったものと思われ、しっかり表情を作っていて、撮影慣れしているみたい。
「このコ、きれいだね」
「人気ありますよ。リピート率では一番でしょう。ただ、週に一回くらいしか出勤しないんですよ」
どっちみち予約で埋まるため、雑誌に出たところで店としてはおいしくない。しかし、それ以前に取材は無理なのであった。
「彼女だったら、きっと松沢さんは気に入ると思うんですけど、扱いが難しいんです。平日は他の仕事をやっているので、土曜日か日曜日しか出られない。雑誌の取材はすべてNGという条件で働いてもらっていて、ネットにも彼女は出てない。顔を伏せた写真でも絶対にダメなんです。まず取材はダメですね」
「そうなのか。この表情からすると、てっきり取材慣れしているのかと思った。エロモデルか、AVか」
「全然違います。こういう仕事は一切やったことがなくて、うちが初体験です。それも自分で撮ってきた写真で、それ以外は使わせてもらえないんです」
彼女が取材を受けない事情を店長はこっそり教えてくれた。
「客には言ってないんですけど、彼女は結婚しているんですよ。それと、普段は堅い仕事をやっているので、バレたらまずいんです」
こういうタイプがこの街には多いのだ。
「よっぼど金に困っているのかな」
「違うんですよ。本人は、趣味だって言ってました。どうもそれが本当のようで、だから、あまり出勤してくれないんです。お金に困っていればもっと出勤してくれて、こちらも助かるんですが」
「そりゃいよいよ興味があるな」
「一度会ってみるといいですよ。取材はたぶん無理ですけど、念のために聞いておきましょうか」
フェラしているだけで濡れちゃうんです
数日後。まだ確認はとれていないかもしれないが、たまたま近くにいたので、結果を聞きに店に立ち寄った。
「どうでした?」
店長は渋い顔をした。
「ちょうど今日は出勤しているので、聞いてみたんですけど、全然ダメでした」
「そっかー」
「今あいているので、会っていきますか?」
「だったらさ、客で入って、ついでに交渉してみていい?」
「僕の方からはこれ以上、強くは言えないですけど、松沢さんが直接言えばOKが出るかもしれませんからね」
「私だから」ということではなく、取材を怖がっている場合はこの方法であっさりOKになることがあるのだ。いわば面接試験みたいなもので、「この人だったら大丈夫」と思うのである。
この直前に別の店でヌイていたので、エロ気分ではなかったのだが、取材につなげるためである。また、彼女には一度会っておきたい。週一しか出勤しておらず、予約で埋まる彼女と今なら会えるのだから、絶好のチャンス。
ただのフリーの客として入ることにした。
彼女はキャミソールを着てドアの向こうで微笑んでいる。彼女があの写真しか使わせないのがわかった。ベストショットだったのである。偶然撮れたのでなく、メイクを作りこんだ写真だ。
現実とギャップのある写真を使用すると、ここで客はガックリする。ここから、挽回するにはよっぽどの力量が必要だ。しかし、こんなことでメゲる私ではない。彼女に人気があることを知っていた私は、失望よりも期待を高めていた。
この店は店舗型にしてはゆったりとした作りになっていて、部屋が広々としており、調度品も殺風景なそれではない。豪華というほどではないのだが、あえて言うならホテルっぽい。
彼女は照明を落としていて、その方が部屋の粗が見えず、妖しい雰囲気を演出できるという計算だろう。私は明るい方が好きだったりもするのだが、こういう場合は相手に任せる方針。
彼女は私のジャケットをハンガーにかけると、ベッドに私を腰掛けさせて、ソックスを脱がしてくれて、それを丁寧に畳んでいる。
「感心だね」
「私、尽くすのが好きなんですよ」
「オレもだよ」
「攻め好きなんですか」
「好きだよ」
「私も。フェラをしたり、玉をなめたりしていると、それだけで濡れてきちゃうんです。濡れてきたところで、攻めてもらうのが好きです」
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