松沢呉一のビバノン・ライフ

朝日新聞のコラムに愕然とした年末—女言葉の一世紀 1-(松沢呉一) -3,607文字-

公開が遅くなってしまいましたが、ここから延々と「女言葉」について論じていきます。女言葉だけじゃなく、フェミニズムを意味する「婦人運動」の「婦人」という言葉がどう使用され、この歴史ある用語がどう消されていったのか。婦人雑誌や女学校はどういう役割を果たしたのか。これはここまで書いてきた私なりの「日本のフェミニズムの問題点」を言葉から見ていく内容です。

今回初めて書くものではなくて、今まであちこちに書いてきたことをまとめ直したようなものです。新規で調べたこともありますが。

今まで出してきた女言葉についての記事も参考にしてください。

プッシー・ライオットの新譜「Straight Outta Vagina」と女言葉の不自然さ

女子高生座談会—女言葉の消滅 1

あいつのチンコ、ちっちぇえの—女言葉の消滅 2

古い女言葉はギャグに—女言葉の消滅 3

粋なプレイガールたち—丸尾長顕著『粋女伝』3

女言葉がデフォルトだった時代—丸尾長顕著『粋女伝』4

地味に続いていきます。

 

 

呆れた「朝日新聞」のテレビ評

 

vivanon_sentence年末、Facebookで、「古い女言葉はギャグに」の更新告知をしたところ、ライターの長岡義幸君が以下の記事を教えてくれました

 

 

 

 

市川崑監督&脚本・和田夏十の映画版を愛する者としては、いささか戸惑った。バカリズム脚本でリメイクされた日テレ系「黒い十人の女」。一人の男を巡り女たちが過激にバトルする。回を追って加速した部分もあるだろうが「腐れ外道がッー!」など極妻かと見紛(みまが)うごとく罵倒するシーンの連続に、いたたまれなくなりチャンネルを変えた事もあった。

他に今期ドラマでは、同「地味にスゴイ!」の校閲ガール・石原さとみが吐く毒舌、TBS系「IQ246」の真飛聖とNHK「スニッファー」の高橋メアリージュンの共に高圧的な男言葉を使う刑事、など女性の乱暴な言葉遣いが気になった。

以前、脚本家・倉本聰に取材した時の言葉が印象に残ってる。ドラマ「風のガーデン」で黒木メイサは、祖父役の緒形拳に常に敬語で接していた。理由を尋ねると、視聴者から昔「ドラマで汚い言葉を使うと子供が真似(まね)をする。テレビは影響力があるので気をつけて欲しい」という旨の手紙を受け取り、以来、肝に銘じて脚本を執筆しているという。

もちろん、テレビが全て品良くあれとは思っていない。でもSNSが発達し、「死ね」とか「ウザい」とか簡単な言葉で人を傷つけている時代。作品を世に発する側が、もう少し言葉に敏感であって欲しいと思うのだ。(ジャーナリスト・中山治美)

朝日新聞デジタル」より

 

「インターネットが発達し、中身のないサイトが金儲けしていることが問題になっている時代。新聞でテレビ評を書く側が、もう少し内容のあることを書いて欲しいと思うのだ」というところですかね。

こんな薄っぺらな「ジャーナリスト」とはワケが違うので、以下、丁寧にこの記事の問題を指摘していくことにしますが、これはたかだか新聞のコラムひとつを批判するのではなくて、「女の行動・表現」がどのように抑制されてきたのか、誰が抑制してきたのかを見据えながら、今まで私が書いてきたさまざまを「女言葉」から確認していくという試みです。

 

 

「架空の女言葉」から抜けるには意図するしかない

 

vivanon_sentence

まず最初にお断りしておきますが、私はテレビをまったく観ないので(テレビが嫌いなのではなくて、あるとずっと観てしまうため、テレビが壊れたタイミングで観るのをやめた)、ここに出てくるドラマはひとつとして観てません。しかし、これらのドラマについて論じている人たちがいますし(ほとんどすべては中山治美さんよりまし)、制作者側の言葉も公開されているので、だいたいのことはわかります。その範囲で以下、論じていきます。

黒い十人の女」の脚本を担当したバカリズムは、このドラマをお笑い、コントとしてとらえており、その上でリアルな言葉遣いを狙ったことをインタビューで答えています。

 

 

 

 

原作は女性の言葉遣いに品があるんです。でもリメイク版では、今の時代に寄せていて、女の子でも男っぽいしゃべり方をしてますね。

──確かに。女の子から「~じゃねーよ!」みたいな男言葉が出てくるあたりは、バカリズムさんが以前に書いていた「架空OL日記」などと同じものを感じました。

文字面だけで見ると男みたいなセリフですけど、現実では女子もそういう言葉を意外と使うんですよね。台本とかでたまに「~しないわよ」みたいな口調を見かけるんですよ。文字面だけで女の子らしさを表現しようとするとそうなっちゃう。でもそういう言葉って今使わないし古臭いというか。だから極力そういうのは排除して、言いそうな言葉遣いを台本に書いてます。

──女性同士のケンカのシーンでは特に口調を男に寄せてますよね。

「~わよ!」みたいな口調にしちゃうと女性同士での罵りあいがチョロく見えちゃうんですよね。迫力がないというか。女性のキツさや迫力を出すには、ヤンキーマンガくらいエグくて汚い言葉を浴びせたほうがリアルなんじゃないかと思います。あえてそういう感じにしました。

お笑いナタリー」より

 

 

今現在の言葉を採用しただけ

 

vivanon_sentenceただ漫然と「女が乱暴な言葉遣いをすれば受ける」なんてことを考えているのではなく、「今現在の言葉」を理解した上での台本であったことがよくわかります。

 

 

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