松沢呉一のビバノン・ライフ

寒さと恋が弱点-デリへル嬢から見たデリヘルの愉しみ-[ビバノン循環湯 186] (松沢呉一) -5,106文字-

昨年の大晦日、正確には今年になってすぐ、新宿ロフトプラスワンで毎年恒例のお下劣お笑いイベントがあって、そのあと皆で花園神社に行った。

知名度のわりに花園神社の初詣は混み合わない。住民が少ないのである。その住民たちも、正月は実家に帰る単身者が多いため、ただでさえ少ない周辺人口は極端に減る。

来ているのは、歌舞伎町や二丁目で年越しをした人たちだ。とくに二丁目のゲイバーやクラブで年越しをした集団が目立つ。半分くらいはそうかもしれない。

腹が減ったので、境内でモツ煮込みやラーメン、焼き鳥を食ったのだが、皆さん、寒くて耐えられないと言う。その点、私は寒さに強い。家の中も外も温度はほとんど変わらないので、花園神社の境内にいても、家にいても一緒。家の中でも吐く息は白い。

今回は私がどれだけ寒さに強いのかを書いた原稿を循環しておくことにした。あくまでサブのエピソードであって、メインは「デリヘル嬢は客と恋に落ちやすい」って話である。たぶんこれは長らく未発表で、メルマガで出したものだと思う。いずれにせよ、十年ちょい前のもの。

なお、私は初詣は神様が暇になった正月開けに行くのが習いなので、元旦はそのまま帰って、まだ初詣は行っていない。

 

 

 

寒い風俗店は客が離れる

 

vivanon_sentence私は寒さに強い。北海道育ちのためかもしれない。

しかし、一般に寒い地域で育った人たちは東京は寒いと言う。北海道だったら、建物はたいてい二重窓で暖房器具も充実しており、どこに行っても中はホカホカ。外に出る時も完全防寒をする。対して東京では建物の中が寒く、薄着で外出するため、実際の気温よりずっと寒く感じる。

私も北海道を離れてしばらくは寒くてしょうがなかったが、すぐに慣れて、今は寒さに強いと思う。

ダチっ子とカラオケに行った時のこと。もちろん、私の好きなパセラである。

ジャケットの下は長袖のTシャツ一枚。気候が春めいてきたため、セーターの類はもうしまい込んで、このところはTシャツに革ジャンだけが多かった。

この日はまた冷え込んでいたのだが、いまさらまたセーターを出すのも面倒なので、こんな格好になっていた。建物の中でTシャツだけでは寒くて、革ジャンを着たままだ。

「松沢さん、建物の中ではジャケットを脱ぎなよ」

娘っ子に注意されて、私はTシャツ一枚になった。

「松沢さん、もっと暖かい格好をしなよ。こっちまで寒くなるよ」

「どっちだよ」

「中を厚着にすればいいだけじゃん」

「そうすると、金が儲かったりするのか」

「いや、しないと思うけど」

「だったら、本が急に売れたりするのか」

「しないと思うけど」

「意味ないじゃないか」

「でも、喉を冷やすと、声が出なくなって歌が歌えないよ」

「それは一大事だ」

この時期に限らず、どちらかと言えば私は薄着のことが多くて、それだけ寒さに強いんである。

しかし、この私でも風俗店では寒くてたまらんことがある。暖房器具の不備で、建物の中が寒い。なにしろ風俗店では全裸になるのだから、思い切り温かくして欲しいもの。そこを考えて、エアコンだけじゃなく、ベッドの脇にストーブを置いている店があるが、電気の容量の問題で、それもできない店がある。

その上、気が利かない店だと、ローションも温めていない。あれは身も心も寒々とする。

あんな店では客が離れかねまいし、女は男より一般に寒がりが多いので、女のコだって辞めかねない。こんな店で働いたがために冷え性になったり、体を悪くしたケースが実際にあるんじゃなかろうか。

その点、ラブホはたいてい暖房設備が充実している。冬はホテルヘルスが安心である。

 

 

寒い家はデリヘル嬢の大敵

 

vivanon_sentenceそのダチっ子はデリヘルで働いているので、私はこう言った。

「冬はデリの方がいいよな、女のコたちも」

「ホテルの中と車の中はね。でも、ホテル街の中で移動することがあるので、暖かい部屋から寒い外に出て徒歩で次のホテルに行くのは辛いよ。厚着をすると脱ぐのも面倒だし。カイロが必需品だよ」

もっと辛いのは個人の家だという。

「男の人って、体温が高いせいだと思うけど、部屋が寒いことが多いんだよね。女のコを呼ぶ時は温度を高めにしておいて欲しいよ。私のいるところは私服でいいんだけど、店によってはコスチューム指定があって、キャミソールの上にコートを着たりするから、ただでさえ寒いんだよね。松沢さんの今の格好と一緒」

「オレもよくコートの下にキャミソールを着ているからな」

「変質者」

「でも、オレんちなんて暖房ないよ」

実話である。

「絶対行かない。だから、松沢さんは建物に入ってもジャケットを脱がないんだね」

「そう言われるとそうかもしれない。うちに帰ってもよくコートを着たままだ。そのまま寝ることもあるぞ」

「自慢げに言わないでくれる?」

「季節を問わず窓を開けっ放しにする癖があるので、体温で部屋が暖まることも期待できない。とくに雪の日は雪景色を見るのが好きなので、窓は全開だよね。そのまんま寝てしまうとさすがに寒いぞ。また自慢しちゃったな」

「えー、信じられない。なんで?」

「マゾだから」

本当は、頭が悪くなるからである。あまりに寒くて喫茶店やフェミレスに避難すると、頭がボーッとしてきて仕事にならない。前にホテルに缶詰になったことがあって、さすがに快適だったのだが、快適だと原稿を書けない。すぐ眠くなる。

窓を開けようとしたのだが、自殺防止のためか、鍵を勝手に開けられないようになっていて、やむなくホテルの人を呼んで事情を話し、窓を全開にして、コートを着たまま原稿を書いた。

「一度、オレの寒さに対する強靭な精神力を自慢するためにデリヘルを呼んでみるかな」

「拷問。SMの店でも断られると思うよ」

自宅にデリを呼ぶ人は暖房には気を使った方がよさそうだ。

 

 

店舗とデリの客の違い、女のコの違い

 

vivanon_sentenceここからデリについての話になった。ホテルヘルスは別にして、自宅にまで行くデリヘルで働いている風俗嬢の知り合いがそんなに多くないため、詳しい事情を知らない。

 

 

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