アイドルのチャート独占とジャンルの傾向—ビョークが主張する音楽業界のセクシズムは存在するのか? 8-(松沢呉一) -2,679文字-
「オリコン上位曲のラブソング率—ビョークが主張する音楽業界のセクシズムは存在するのか? 7」の続きです。
アイドルがチャートを占拠している
前回確認したように、今現在の日本のヒットチャート上位曲に関して言えば、作詞家が圧倒的に男に偏っています。
その理由のひとつは、女のシンガーソングライターがまったく入っていないことにあります。たまたまこの時期リリースがなかったのかと思ったのですが、2016年の年間ランキングを見たら、ここでも同じで、1曲として女のシンガーソングライターものが入っていませんでした。
西野カナ以降、人材がいないっぽいのと同時に、この辺のリスナーはもうCDを買わないのでしょう。世代的にも、ダウンロード販売に移行している。
その結果、CDの売り上げでは圧倒的にアイドルが強く、ベスト10は、1位から4位がAKB48、5位、6位が乃木坂46、7位が嵐、8位が乃木坂46、9位、10位が嵐。以下もアイドルが続いて、27位にやっとHi-STANDARD「ANOTHER STARTING LINE」が入っています。
以降はアイドルの間に、星野源、氷川きよし、桑田佳祐などがチラホラいるだけです。ここまでアイドルしか上位にいないとは思っておらず、ちょっと動揺。
短期で見ると、演歌、J-POPも健闘しているように見えますが、年間を通すと週間の上位しか残らず、結果、9割近くがアイドルなのです。
よく言われるように、握手会などの特典欲しさに購入するってこともありましょうけど、ジャニーズ系も上位に並んでいて、こっちはファンクラブの組織力でしょうか。
アイドルが売れているというより、CDが売れなくなって、売れる事情がなおあるアイドルだけが残ったってだけと言った方がよさそうです。
※オリコンは、一人が複数枚購入するようなケースをカウントしないという方針を数日前に公開しています。以下を参照のこと。
「販売施策イベントに基づく売上のランキングへの反映について」(PDF)
しかし、完全にこれを排除することは難しいでしょう。複数のイベントで同じ人が毎回購入することを把握することはできませんから。
ヒット曲の構造変化
ただアイドルが多いだけではなくて、アイドルの作られ方が違ってきていることが、女の作詞家の活躍の場がなくなったことと関わっていそうです。
かつての歌謡曲では女の作詞家が活躍していたのに、それが消えて、キャンディーズや郷ひろみなど、アイドルにも多数詞を書いていた阿木燿子は藤あや子に歌詞を提供しています。「たそがれ綺麗」という曲で、作曲は南こうせつ。人生の黄昏時を肯定的に歌ったものです。
歌謡曲、あるいは歌謡曲寄りのJ-POPでは、プロデューサーがコンセプトを考え、曲作りまでを手がけるようになってきたため、いわば政治力みたいなものも必要となり、ただ曲を作り、歌詞を作るだけでは依頼がなくなってきているのだろうと想像できます。
スナックやチョンの間のような小規模な業態では女の経営者が多数いて、地域によっては圧倒的に女経営者が占めているのに、キャバクラやソープランドのように経営規模が大きくなると、男女が逆転するのと同じ。
とは言え、女の作詞家による4曲ともラブソングですから、作り手の性別がどうあれ、ラブソング率は変わらないでしょう。
ジャンルとラブソング率
以上のように、CDの売り上げで見る限り、今の日本で売れている曲の平均7割から8割程度はラブソングであり、「J-POP→アイドル→演歌」の順にラブソング率が高まります。
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