松沢呉一のビバノン・ライフ

ちんこ・ちんぽ・ちんぼ—『夫のちんぽが入らない』における「ちんぽ」の考察 4-(松沢呉一) -2,193文字-

ちんぽの力—『夫のちんぽが入らない』における「ちんぽ」の考察 3」の続きです。

 

 

局部という表現

 

vivanon_sentence私が気づいた範囲で、こだま著『夫のちんぽが入らない』の中に、一カ所だけ夫のちんぽを「局部」と表現しているところがあります。59ページ。

彼は自らの局部にジョンソンベビーオイル無香性をどろんどろんに塗りまくり、ゆっくりと押しつけてきた。

夫婦間でこのことを語り合うまでは「ちんぽ」という言葉が共有されていなかった可能性もありますが、このシーンは「ちんぽ問題」が生起して数年が経過して、ベビーオイルを導入した時のものです。

その前に「ちんぽ」という言葉が何度も出てますので、これは本来「ちんぽ」と書くべきところじゃなかろうか。すべて語彙を統一しようという気がなかっただけかもしれず、原文がそうなっていれば、校閲や編集者も、ここまでは用語統一をしないだろうと思います。

また、自身の性器についても「局部」という言い方をしていて、「まんこ」とは言ってません。たぶん彼女が夫以外の相手に使うとしたら、性器は男女ともに「局部」であり、ここではその言葉を使ってしまったのだと思えます。

局部」は「局部麻酔」のように、もともと「特定の一部」という意味でしかないので、思い切り婉曲な表現であり、「ちんぽ」「まんこ」とは対極にあります。「局部」と「ちんぽ」が彼女にとっての社会と夫の違いです。

 

 

「ちんこ」か「ちんぽ」か「ちんぼ」か

 

vivanon_sentence東京に住んでいる人たちの多くは、こういう場合に「ちんこ」を使用する人が多いかと思います。しもともとこれは幼児語ですが、その方が「ちんぽ」よりまだしも使いやすい。子どもはちんこを公道で露出していても罪に問われないですが、大人がちんぽを出すと捕まります。「ちんこ」は世間体がいいのです。

1980年代、それこそ原律子が「おまんこ」という言葉を印刷物で使い始めた時代、それとペアになる男性器の呼称は「ちんぽ」が多かったと記憶します。私もライターを始めてからしばらくは「ちんぽ」を使ってましたし、日常でもそうでした。『魔羅の肖像』の雑誌連載時は「ちんぽ」でした。だから、読者投票でもワーストが続きました。「ちんこ」にしておけば読者投票でベストだったのに。

その反省もありつつ、誰も彼もが「ちんぽ」を使うので、つまらなくなって、私は「ちんこ」に転向しまして、『魔羅の肖像』も単行本の段階では「ちんこ」に直しています。この辺の事情は単行本か文庫にも書いたんじゃなかろうか。「私はもっとキュートで行こう。かわいがられるキャラで行こう」との下心です。

その私の影響もあるのかもしれないですが、今は印刷物でも「ちんこ」と書かれたものが多い印象です。

しかし、地域によっては今も大人の場合は「ちんぽ」です。むしろ、その方が多いかと思います。

※表紙よりはマシですが、扉のタイトルも見えにくい

 

 

東海地方の「ちんぼエリア」

 

vivanon_sentenceまた、地域によっては「ちんぼ」です。

 

 

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