松沢呉一のビバノン・ライフ

彼氏がゲイだとつきあっていた時間が無駄になる?—男と女の違い -[ビバノン循環湯 206] (松沢呉一) -4,407文字-

 

※数日前、小説家の花房観音さんから、大変示唆に富む指摘をしてもらいました。その内容に触れる前に、読んでおいて欲しい文章があります。

個人を取り出した時にはまた別として、男女全体の傾向の差はどうしたってあります。生来のものか、学習かはともあれ、現に違う。恋愛観やセックス観についてはとくに違いがあります。恋愛において女子が考えることを理解できないことがあって、その理解できないことにこそしばしば男女差が潜んでいます。

今回出すのはまさにそういう内容で、女子に解説をしてもらって、やっと「あー、そういうことか」と仕組みがわかり、でも、実感としてはやっぱりわからん。私の中にはない感覚。わかる男もいるでしょうが、多くの男はわからないと思います。女でもわからない人はわからないのですが、わかる人はわかる。女の方がわかる人が多いところに男女差があります。

これは五、六年前にメルマガで出したものです。一部、ミニコミ「ショートカット」に出したものを転用しています。

添える図版が足りないので、セックスや結婚を匂わせる写真、男女の違いを象徴するような写真(銭湯ですけど)を適当にあしらってみました。

 

 

 

彼氏はゲイかも?

 

vivanon_sentenceある女子大生の体験。彼女が最近つきあい出した同じ大学の男子が風呂に入っている時に、携帯をこっそり覗いたところ、メールや電話の履歴には怪しいところはまったくない。一安心である。

そこでやめておけばよかったのに、続けてインターネットの履歴を見たところ、ゲイサイトばかりではないか。クリックをしたら、かわいい男の子の裸、裸、裸。

私の彼氏はゲイだったのか!」と彼女は驚愕したのだが、彼氏とは毎日会っていて、毎日欠かさずセックスをしている。

どういうこと?

携帯を覗いたことの後ろめたさと、理解できない事態に遭遇したことにより、彼氏に聞くことができず、たまたま何かの事情があって、ゲイサイトを見ただけかもしれないと考えて落ち着こうとした。

私らのような仕事をしていれば、原稿を書くためにゲイサイトを調べることもあり得るが、学生の彼にそんな用事があるはずもない。何を専攻している学生か知らないけれど、学校の課題のためってこともないだろう。

たまたま彼の友人がゲイだとわかって、その友人がモデルをやっているサイトを覗いた可能性もあろうが、そうもたくさんのサイトを見る必要はない。ノンケでもモデルや売り専で働けるので、どこかから話があって、どういうことをするのか確認していたのだろうか。

それから数日後、気になって気になって仕方がなく、彼氏が寝たあとで、彼女は再度履歴を確認した。その後も連日ゲイサイトをチェックしていて、その中のいくつかのサイトはブックマークまでしていることが判明。「たまたま友だちがゲイだった説」「ゲイ関連のバイトをやるための下調べ説」はほとんどありそうにない。

辛うじて見いだした安心のための解釈は消え去った。

 

 

彼氏は過渡期か?

 

vivanon_sentence事が事だけにいよいよ彼氏には言えなくなり、思い悩んだ彼女は、私の知人に相談を持ちかけた。

「毎日セックスをしている彼氏がゲイってあり得る?」

この知人はヘテロの男だが、ゲイ事情にはそこそこ詳しく、二丁目で時々飲んでいる。

ゲイであることを隠して、世間体のため、あるいは「自分は女ともできる」という納得のために女とつきあっているんだったら、そうもセックスはしないだろう。

彼氏はバイかもしれない。男も女もどっちも好きで、どっちとも楽しくセックスができる。女への欲望は彼女とのセックスで満足していて、男への欲望はネットで満足しているというわけだ。

ただし、女のバイに比べると、男の純粋なバイは圧倒的に少ない。相談された知人は「本当はゲイかもしれないけど、そうはっきり自覚し、行動するには至っていない状態」かと考えた。

自分がゲイであるとはっきり自覚するまでは、女とのセックスをなんの問題もなく楽しめる人たちがいる。それしか知らないのだから、その中で楽しむしかないと言うか。しかし、そのうち、男とセックスを始めると、女性とはできなくなったり、したくなくなったりもする。

彼はまだ若いので、その可能性は十分ありそうだ。若いうちはこういう迷いの時期、揺れる時期があるものだ。

しかし、彼女によると、女の裸はインターネットで見ていないそうなので、すでに十分ゲイであることの自覚をしていながら、まだ体験はないのかもしれない。

相談された知人は彼女にこうアドバイスした。

「正確なことはわからないけど、毎日会ってセックスしていて、怪しいメールもしていないってことは、今現在、彼氏は男と浮気しているわけじゃなく、ゲイサイトを見ているだけなんだから、バイでもゲイでもいいじゃないか」

私が聞かれたら、同じことを答えただろう。なんだってよし、今が楽しければそれでよし。悩むには早すぎるし、携帯を覗き見したことの方が問題のある行為とも言えて、それを彼氏に言うことの方が二人の関係を崩壊させかねない。

しかし、ここで話は終わらなかった。この話、ここからが面白い。

※写真はゲイ関係のバイト募集の貼紙

 

 

 拡散される相談

 

vivanon_sentence

知人の的確な説明に対しても、彼女は納得しない。

彼女の言い分はこうだ。

このまま三年間つきあい続けたあとで、彼氏が男に走ったら、この三年間はなんだったのって話になるじゃないですか。そんなことになるんだったら、早く別れた方がいい」

私の知人は「三年間が無駄になる」という意味がわからず、「どういうこと?」と問いただしたのだが、彼女もその感覚をうまく言葉にできず、今度は私が彼から「どういうことなんだろう」と相談されたって次第。

それを聞いた私は当然考えられる可能性を口にした。

「彼女は結婚をゴールとして考えていて、結婚にたどり着けない恋愛は無駄ってことか?」

「僕もそう思って聞いたんだけど、それとはまた違うらしいんですよ。“相手がゲイじゃなくて、他の女に走って三年後に別れるのはしょうがない。それは無駄とは思わない”と言ってました。彼女は何を気にしているんですかね」

「うーむ、全然理解できないが、これは男と女の違いを明らかにする深い深いテーマかもしれないな」

そんな勘が働いて、さらに私はいろんな人に聞いた。面識のないそのカップルがどうなろうと知ったことではないし、その後どうなったのかも聞いてないのだが、彼女の考え方はわけがわからないだけに気になる。

彼女の知らないところで、この話は拡散されて、さまざまな人の意見を聞いた結果、その感触通り、ここには男女の大きな差があることがわかってきた。

 

 

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