カネヤマシン君追悼—ズリネタ調査報告 予告編- (松沢呉一) -2,680文字-
カネヤマシン君の訃報
40代になると、毎年知人が亡くなるようになります。50代になると、毎年複数の知人が亡くなるようになります。歳を重ねて知り合う人が増えるってことは、訃報を聞くことが増えるってことだし、死ぬ年齢にそれぞれが一歩一歩近づいていくってことです。訃報を聞くたび、自分の番が近づいてきていることもひしひしと実感します。
一昨日、Facebookで、高松在住の漫画家カネヤマシン君が亡くなっていたことを教えられました。
4ヶ月も前に亡くなっていたのか。Twitterではやりとりがあったのですけど、私がTwitterをやらなくなってからは、SNS上でのやりとりはなくなりました。
また、彼は私のメルマガの購読者でもあったので、時折感想のメールをくれていたのですが、メルマガは現在配信を停止しており、メールは2年前が最後でした。
生悦住さんの訃報
そのあと、モダーンミュージック(PSFレコード)の生悦住(いけえずみ)さんの訃報も流れてきました。
レコードやCDを買っていた時代にはよく店に行っていて、生悦住さんは店員に店を任せて、近所の喫茶店でダベるのが常でした。
リリースしていたものからすると気難しい人のような印象を持たれそうですが、実際の生悦住さんは話し好きで気さくな人でした。音楽の話ももちろんしていたのだけれど、生悦住さんは落語が好きで、そんな話をとりとめもなくしていたことの方が多かったように思います。
最後に会ったのはたぶん10年以上前。連絡をとった最後は7年くらい前かな。モダーンミュージックに委託盤を預けてあって、長らく清算をしておらず、金がない時にそのことを思い出してメールをしたのが最後です。期限切れで清算はできなかったんですけどね。
尾を引く訃報
カネヤマシン君と生悦住さんのダブルの訃報で、一昨日からずっとどんよりしてます。
雨宮まみの訃報は「あ、そうなんだ」で終わったのに対して、この二人、とくにカネヤマ君の訃報はとてもそれでは済まず、さまざまなことを思い返してしまいます。
カネヤマ君とは、彼が手紙を送ってくれたのが最初のコンタクトだったかと思います。当時彼は風俗誌で漫画の連載をしていて、私が書いている風俗もののエッセイを漫画にしたいという内容でした。
こういう話は他からももらったことがあるのですが、全部断ってます。
原稿にする場合は、相手にそれなりの配慮をしています。許諾をとれるものはとっていますし、とれないもので個人が特定されかねないものは内容に手を加えたり、時間を置くなりしてます。
許諾をとった上で本人が特定されてしまうような内容を書いている場合もあり、これは私に対する許諾ですから、自分の知らないところで漫画になると、いい気持ちはしないのではないか。法律ではなく、気持ちの問題であり、配慮の問題。
かといって、改めて確認をとるのは面倒だし、もう連絡がとれないのもいます。問題なさそうなものを選べばいいってことですけど、そういうことを考えること自体が面倒です。その当時は忙しかったですから。
この話は断ったのですが、これをきっかけにつきあいが始まって、彼が連載をしている四国拠点の風俗誌「Ping」で私も連載をすることになり、四国に行くたびに彼に会ってメシを食ったり、カラオケをしたり、高松市内を案内してもらったり。何度か彼が住むアパートにも泊めてもらってますし、高松から松山まで、彼が運転する車で移動したこともありました。その間ずっーと話していて、たいていバカ話でした。
※雑誌「Ping」はすでになく、現在はネットのみのよう。
悔いても詮無きことを悔いる
彼は十代の時から難病を患っていました。全身性エリテマトーデスです。通院し、服薬し、体に負担のかからない生活を続けていればひどくなることはなく、早寝早起きの規則正しい生活をしていたのですが、「たまには大丈夫」と、私といる時は無理をして深夜までダベってました。
しかし、 3年ほど前にも入院したことがあって、加齢によって体に負担がかかってきていたのかもしれない。たぶん最初に知り合ったのは彼が30代に入って間もない頃だと思いますが、享年47。彼もそんな歳になって、私も同じだけ歳をとりました。
考えてもしょうがないけれど、今考えると、面倒を惜しまずに、私の書いたものを漫画にするアイデアに協力すべきだったとも思います。そしたら、共同作業の作品が残ったのに。
「せめて彼のことを書いた原稿を循環しておくか」と思って自分の書いたものを検索をしてみました。旅日記みたいなものの中に彼が何度か出てくるのですが、まんま再録してもあんまり面白くなさそう。彼の妹をクローズアップした原稿もあるのですが、妹は生きているし。
検索している過程で、拙著『60分ロマンス』に「カネヤマシン君」という原稿を収録していたことがわかりました。自分の書いたものなのに「わかりました」というのも変ですけど、完全に忘れてました。
この本はうちのどこにあるのかわからず、原稿は壊れたハードディスクに入っているため確認ができず、どんなことを書いたのかも記憶にありません。
(残り 628文字/全文: 2829文字)
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