松沢呉一のビバノン・ライフ

死体が解体されるマンション—怪談ではない飲み屋街の怖い話 2-[ビバノン循環湯 202] (松沢呉一) -2,348文字-

別人格に刺されたバーのママ—怪談ではない飲み屋街の怖い話 1」の続きです。

 

 

 

もうひとつの気絶体験

 

vivanon_sentence多重人格の恋人に刺されたバーのママの話はまだまだ続きます。

「よくテレビや映画で気絶するじゃないですか。そういうのって本当かなと思っていたんだけど、本当に気絶するんですよね」

私も高校の時に、検査のために血を抜かれて、立ち上がったところで倒れて気を失ったことが一回だけあります。刺されて気絶するのと、注射器でちょっと血を抜かれて気絶するのでは迫力が違います。

しかも、ママが気絶したのはこの時だけではありませんでした。

「もう一回気絶したことがあって、車を買って友だち二人を乗せて、首都高を走っていたら、カーブの手前で衝突したところまでは覚えているんだけど、そこで気絶して、目を覚ましたら病院だった」

カーブでスピードを落としたところで、居眠り運転をしたトラックが時速100キロで後ろから追突してきたのです。

「奇跡的に3人とも軽傷だった。警察に“死んでいてもおかしくない”と言われました。不思議なもので、こっちは全然悪くないのに、悪いことをした気がして、警察にも謝ってしまって、それが悪かったのかもしれないんですけど、相手の車の修理代や私の治療費の2割を負担することになった。自分の車は廃車だし。保険をフルに使って、同乗者の治療費とかはなんとかなったんだけど。後ろに乗っていた子が一番ひどくてしばらく首にギブスをしていました。それでも、たいした怪我ではなかったのが幸いでした。その時も見事に気絶をしていて、現場検証の時にカープの手前までは覚えていたんですけど、車はカーブのところの壁にぶつかって停まっていて、それが25メートルあった」

車は25メートルも飛ばされていたのです。シートベルトをしていなかったら、フロントガラスを突き抜けて飛び出していたでしょう。

「カーブのところにもし高い壁がなかったら、高速の下に転落してしたかもしれない。そしたら、全員助からなかったでしょう」

こわ。

 

 

携帯の電磁波で手が痺れる異常現象か?

 

vivanon_sentence事故の話を受けて、私はこう聞きました。

「あのさ、その瞬間をよーく思い出してみると、フロントガラスに血まみれの女がへばりついていたりしなかった?」

取材のテーマは怪談ですから、なんとかして怪談に持ち込みたい私。

「ないない」

気を利かせて、ここは話を盛って欲しいものです。

交通事故の後日談。

「その時はたいした怪我ではなかったんだけど、今になって後遺症が出てきた。ちょっと前から指が痺れていて、ちょうどiPhoneにしたところだったので、たぶんこの画面から電磁波が出ているせいだなと思っていたんですよ(笑)。画面を触ると痺れるって、お客さんにも言っていたら、みんな納得していたんだけど、あるお客さんが、“それって首だと思うよ。病院に行った方がいい”と言われて、大学病院に行ったら、症状を聞いただけで、“頚椎症ですね。事故の後遺症でしょう”と言われて、レントゲンを撮ったらやっぱりそうでした。どの指が痺れているかで何番目の頚椎が悪いかわかるんですよ。歳をとると、軟骨が弱くなってきて、若い頃の後遺症が出てくる。後遺症は怖いですよ」

私も30年くらいすると、昨年、骨折した肩に後遺症が出るわけです。生きてないと思うので、どうでもええわ。

 

新築なのに悪臭のするマンション

 

vivanon_sentenceママの話はまだ続きました。

怪談はひとつもないのに、生身の怖い話はいっぱいあるなあ。

「10年ちょっと前ですけど、ペットを飼っていたので、それまで住んでいたマンションに住めなくなったんですよ。急遽、新居を探すことになって、この近くに物件を見つけた」

 

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