昭和国民礼法が定める言葉遣い—女言葉の一世紀 13-(松沢呉一) -2,755文字-
「言葉が汚い女はあばずれ—女言葉の一世紀 12」の続きです。
「昭和国民礼法」の意図
女が「ボク」「キミ」を使うことを封じた「昭和国民礼法」の意図は、文部省自身が明らかにしています。
以下は「昭和国民礼法」の冒頭に掲げられた「礼法の趣旨」全文です。
礼法の趣旨
礼は、上皇室を敬ひ奉り、下億兆の相和する心より起る。これ我が肇国の精神の中に存するところ、これを正すは、方に国体の本義を明らかにし、社会の秩序を維持する所以である。君臣の義、父子の親、長幼の序、上下の分、みな礼により自ら齋ふ。礼は徳の大宗、人倫の常経にして、国民の必ず履むべき要道である。
礼は元来恭敬を本とし、親和を旨とする。これを形に表すのは即ち礼法である。礼法は実に道徳の現実に履修されるものであり、古今を通じて我が国を齋へ、大にしては国民の団結を強固にし、国家の平和を保つ道である。宜しく礼法を実践して国民生活を厳粛安固たらしめ、上下の秩序を保持し、以て国体の精華を発揮し、無窮の皇運を扶翼し奉るべきである。
「昭和国民礼法」には服装や戸の開け閉め、食事のマナーなどが事細かに書かれています。
「ズボンはベルトを使用し、ズボン吊りを用いない」「会食の際に食事を多くとりすぎない」「音楽会では無闇に立ったり、座ったりしない」「スポーツでは全力を尽くす」なんてことも、すべては皇室を頂点として、国体の本義を体現し、秩序維持を実現し、国民の団結を強固にし、国家の平和を保つためのものでした。
「昭和国民礼法」はこのような質のものでしたから、「御真影」に対する扱いも定められています。塚本幼稚園が天皇、皇后の写真を出しっ放しにしていることが批判されていましたが、ふだんは覆いをかけておき、儀式がある際には、始まりとともに覆いを外し、終わる前に覆いをかけることが定められています。晒ものにしてはいけないのです。
また、「御真影」は式場の正面中央に出すことが定められていますから、この点でも塚本幼稚園は不敬と言えましょう。
「昭和国民礼法」は法律ではないので、罰則はないわけですけど、不敬罪で籠池一族は懲役刑になったかもしれず、あのような方法で、学校で出しっ放しにできていること自体が戦後の自由を謳歌していると言えます。
※『昭和の国民礼法』より。国旗を外国旗と一緒に出す場合の正しい出し方の図。
文部省が女の「ボク」「キミ」を否定した
「昭和国民礼法」には当然言葉遣いについても章があり、敬語のみならず、自称の言葉までが定められています。
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