松沢呉一のビバノン・ライフ

女たちも見た目のいい男が大好き—田中美津インタビューの疑問点 8-(松沢呉一) -2,920文字-

誰に自己投影して、誰に欲情するのか—田中美津インタビューの疑問点 7」の続きです。

 

 

 

女も見た目で男を判断する

 

vivanon_sentence前回の最後に出てきた女子が言っていたように、田中美津さんのような見方は、マーケットを支えているのは少なからず女子であり、女性向けAVがすでに存在していることを無視しています。

とりわけ漫画や小説においては、女子向けのものが人気を得て確固としたジャンルを作り出していることを無視しています。男女では意味合いが違うのだとしても、そこでは凌辱ものが人気であることも無視しています。

「女はこんなものを見ないし、見ても楽しめない」という思い込みです。ちょっと調べればわかることを調べないで安直な思い込みをなぞるから、現にそういうものを楽しんでいる女たちは肩身が狭くなる。田中美津さんでさえも、「女は〜である」という女の規範を作り出し、そこから外れる女たちを無視するのかと暗澹たる気持ちになります。

それでも田中美津さんはましな方ですけど、「女たちはどんな表現で欲情しているのか」というテーマは面白くて、こういうことこそ、フェミニストは探究していいはずなのに、「ポルノは男が作り、男が消費している」という思い込みから抜けられず、それを固定することしかできない人たちが多すぎます。性の領域はそんなに簡単じゃねえって。

しゃあないので、男のエロライターがもう少しやっておきますか。

 

 

見た目のいい男に凌辱されたい

 

vivanon_sentence例外は多数ありながら、ここではざっくり多数派の男は男に、多数派の女は女に自己投影しやすいとしておきますが、女子向けでは、多くの場合、凌辱する側が揃って美形です。「汚いおじさんに犯される」というものもあるにせよ、多くは美形。男が女を凌辱する表現において、男視線のものは、凌辱される側が美形じゃなきゃならないことの裏返しです。

対して、自己投影する対象はたいして美形じゃなくてもいい。むしろ、汚いおっさんが凌辱ファンタジーを満たす場合、美少年では現実と違いすぎて自分を重ねられない。同じく、女子向けの表現では、自己投影する同性はたいして美形じゃない方がいい。チッチとサリーの世界。

このように、自己を投影する対象は幅があるとして、欲望を向ける対象においては、男女問わず、多くの人に共通しているのは美形が好きってことです。サブの登場人物においては不細工な男も出てきましょうが、あくまで脇役、引き立て役です。

当たり前のようでいながら、不思議じゃないですか?

男が女を見た目で判断することを批判する人たちがよくいますね。ルッキズムだのなんだのって。

たとえばある会社が、男性社員の未来の嫁さん候補として、女子社員をルックスで採用していたとしたら、非難されて当然です。

しかし、個人がルックスで好きな相手、つきあう相手、結婚する相手を選ぶのは自由であり、ミュージシャンのルックスで音楽を聴くのも自由。そのはずなのですけど、なぜかこれをも非難する人たちがいます。「男は女を見た目で判断し、物として扱う」みたいな。

あれぇ? おかしいですね。レディコミを見れば、男は美形が圧倒的に多い。ここでは「女も男を見た目で判断し、物として扱っている」みたいですよ。

承認欲求を満たすための要素が入ってきて、女子向けでは、「金を持っている」「親が金を持っている」「家柄がいい」「社会的地位が高い」「海外生活が長い」「将来性がある」「いい大学を出ている」「才能がある」といった背景が付随してくることが多いと思いますが、見た目も不可欠な要素です。そんな条件をすべて満たす男なんてまずいないですが、いないからこそファンタジーが成立します。

※兄弟揃って美形の二人にヤラれてしまう漫画が表紙になってます。レディコミは3Pが好きですよね。表紙やタイトルだけではわからんですけど、これに対して女二人・男一人の3Pは見当たらず。ちなみに私は女二人・男一人の3pは興味なし。だって気疲れするんですもん。しかし、ファンタジーでは気疲れしない。ファンタジーって素晴らしい。

 

 

ホストが成立する理由

 

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なんとなく「男は見た目で相手を選び、女は内面を重視する」みたいな幻想が蔓延しているわけですけど、どうやらそれは違うみたいっすよ。

今も交流がある女友だちが、ホスト通いをしている時期に、「なぜホストか」について、また、「ホストは見た目であること」について素晴らしい説明をしてくれて、深く納得したことがあります。

 

 

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