松沢呉一のビバノン・ライフ

男の職場に女性が進出—「女子」の用法 10-[ビバノン循環湯 234] (松沢呉一) -2,620文字-

不均衡な用法の具体例—「女子」の用法 9」の続きです。

 

 

 

「男の職場に女性船長」

 

vivanon_sentence新聞では表記を統一しているため、地の文章での不均衡は少ない。しかし、あることはあります。

 

以下は朝日新聞の記事

 

 

 

 

 

女性の船長、日本郵船も 海運大手3社で誕生

日本郵船は3日、132年の歴史で初めて女性社員を船長に昇格させたと発表した。商船三井では昨年、川崎汽船では2年前に船長職の女性が誕生。「男の職場」のイメージが強かった船の世界でも女性進出が本格化した。

1日付で船長に昇格した小西智子さん(33)は、鳥羽商船高等専門学校(三重県)を卒業後、2004年に同社に初の女性海上職として採用された。現在は1等航海士として航海中で、船長としての初仕事は今後の航海になる。

海上職志望の女性は「人気漫画ワンピースの影響もあって増えつつある」(業界関係者)といい、日本郵船では海上職約560人のうち14人が女性だ。

 

 

私が原稿を書く場合は、「男の職場」「女の職場」で揃えますが、新聞社は「男性の職場」「女性の職場」で揃えるルールのはず。

しかし、この記事以外でも、「朝日新聞」では「男の職場」というフレーズを使っている例があり、カッコを使用していないこともあります。「男の職場」で常套句となっているためでしょうけど、この常套句は頻繁に使用されるようなものでもなく、そこにこだわる理由はさほどない。

事実、「男性の職場」でも不自然ではない。にもかかわらず、今現在検索すると、「朝日新聞」では「男性の職場」という言葉は使われておらず、「男の職場」だけです。

「男女が不均衡である職場はよくないのだから、否定すべきもの」として「男」としているのだろうとも思えます。犯罪者と同じ扱い。

しかし、たとえば保育園に男が入ってきた記事で、「女の職場のイメージが強かった保育の世界でも男性進出が本格化した」とは書かないですから、「不均衡はよくない」ということではなく、「男たちは粗雑で乱暴。そんな中にかよわい女性が」というニュアンスを強調したいのだろうと思えます。

 

 

日経がこの辺の言葉遣いにもっと意識的かもしれない

 

vivanon_sentence他社も検索してみましたが、「毎日新聞」では「男の職場」を使用している例はなし。「産経新聞」は“男の職場”という表記で統一。クォーテーションマークでくくる。

「日経」にはこんな記事がありました

 

 

 佐川急便を傘下に持つSGホールディングスは女性社員比率を現在の約2割から14年度末に3割にするため、3年間で約1万人の女性を雇用する計画。運輸業界は男性中心の職場で改革は簡単ではない。「『女は面倒』という現場の声は残るが、今変えないと将来苦境に立たされる」(人事部)

フジタが女性活用推進に乗り出したきっかけは“外圧”。05年に経営悪化でゴールドマン・サックス証券の支援を仰いだ際、強く求められたのだ。「建設は男の職場」。社内には反発の声もあったが、今は違う。総合職の約2割を目安に女性採用を進めてきたところ、「フジタなら働ける」という評判が理系女子の間に定着。優秀な人材が採りやすくなった。女性社員比率を18年度までに1割(現状5%)とする目標を定める。

 

 

上の段落ではSGホールディングスの人事部が「男性中心の職場」とコメント。フジタの「建設は男の職場」というのは、フジタがそう説明したようにも思えますし、記者がフジタ社内の声をそうまとめたようにも思えますが、いずれにしてもカッコつき。

「日経」では見出しに「男の職場」を使っている例もあり、カッコつきで使用可の言葉のようです。

 

 

 

 

こういう例もありつつ、日経では上に出ている「男性中心の職場」という言い方をするようにしている印象。男性中心職場」という表現も見られます。「の」が入らないと無理矢理感が漂って、「人生極楽酒場」みたいな居酒屋か、「自我崩壊劇場」みたいなアバンギャルド系小劇場みたいですけど、「ジェンダーバイアスを避ける表記」を模索している様子です。

ネットで公開している記事の絶対数が違いますし、その内容の傾向も違いますから、単純比較はできないのですけど、「日経」がこの言葉遣いに意識的であるのは意味がありそうです。

 

 

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