松沢呉一のビバノン・ライフ

幽霊が住む風俗店と怖い女が働く風俗店-[ビバノン循環湯 244] (松沢呉一) -3,708文字-

たぶん四国の風俗誌「Ping」に十年以上前に書いたもの

 

 

 

風俗店の怖い話

 

vivanon_sentenceよく時間潰しをしている性感ヘルス店の待機室にいたら、そこにいたEちゃんがこんなことを言い出した。

「風俗店にはよく幽霊が出ますよね。この店は今のところ出ないけど」

私は興味なさそうに「へえ」と返事。どうせ金縛りになるとか、そういう話だろう。

そしたら、その場にいたKちゃんも「出る出る」と言い出した。

「前にいた店で店泊すると必ず金縛りになったんですよ」

やっぱり。

怪談話は好きなんだが、たいていこの程度の話で終わってしまうので、あまり真剣に聞く気になれない。そのために今まで積極的に聞いたことがなかっただけで、風俗店に怪談話はつきものらしいのだ。

彼女らによると、特に渋谷にあるPという巨大マンションは、霊現象が頻発するので有名なのだという。

駅から3、4分のところにあるこのマンションにはいくつもの風俗店が入っている。一階にも看板を出した店舗が入っているし、上のマンション部分にも入っていて、他のビルにフロントがあり、このマンションの部屋をプレイルームに使っている店も多い。

巨大ではあっても、表通りには面していないため、一般にはよく知られた存在ではなく、一階にしか看板が出ていないので、横を通りかかったところで、風俗店がいっぱい入っていることもわかりにくいが、その実態は巨大風俗ビルだと言っても過言ではない。

風俗業界に詳しい人なら、Pというだけですぐにわかり、「Pの横を通り過ぎて左折したところにあるビル」といったように、目印にもよく使われる。

 

 

水に濡れた足が歩く音

 

vivanon_sentenceこの時、控え室にいたEちゃんもKちゃんも、このマンションの中にあった風俗店で働いていた経験がある。

まずはEちゃんの話。

「お客さんがいない時にうつらうつらしているじゃないですか。そうすると、誰かか足をトントンと叩くんですよ。誰だろうと思って起きると、誰もいない」

「店長が起こしに来たんじゃないの?」

「だって、触られてすぐに起きたのに誰もいないんですよ。ドアも開いた形跡もないし」

 

 

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