松沢呉一のビバノン・ライフ

依存症までが性風俗の問題にすり替えられる—兼松左知子著『閉じられた履歴書』のデタラメ 9-[ビバノン循環湯 252] (松沢呉一) -6,487文字-

個の問題と業界の問題を区別できない無能者—兼松左知子著『閉じられた履歴書』のデタラメ 8」の続きです。

 

 

 

ヤクザが好きな女たち

 

vivanon_sentence前回詳しく取り上げたリサの話を読むと、あたかもリサは野口に騙されたかのようにも読めるが、野口、そして須田と、ヤクザもんと続けてつきあっていることからして、「こういうタイプと好んでつきあっているのだろう」と思わないではいられない。

今現在、ヤクザもんとつき合っている知り合いもいるが、たいがいはヤクザもんが好きなんである。それを自覚できていて、とくに問題がないなら勝手にすればいい。兼松さんの文章から見えて来るリサという人物の人となりからしても、たぶん彼女もこのタイプと推測できる。もちろん、これだけでそう決めつけることはできないけれど、その可能性は高いだろう。

こういうことが理解できない人がいるのだが、世の中にはヤクザ好きな女たちがいる。ヤクザになる根性はないが、ヤクザと仲良くしたがる男もよくいる。出版界にだってよくいる。これも依存傾向の表れであることが少なくないと思うが、自身でそれを選択している場合、ヤクザに殴られる意味も違ってこよう。

現にこういう女たちが少なくないから、ヤクザはモテる。互いの需要が合致しているのだから、「お幸せに」というしかないと私は思っている。冷たいと思うかもしれないが、私の手には負えない。

もちろん、ケースバイケースなのだが、共依存関係としてとらえるべきケースでは、一方的に男が常に加害者、女は常に被害者という関係で見ている限りは解消できない。これはグリーンウォルドの見立て通りかと思う。

ましてこれをも性労働の責任とする薄っぺらな道徳主義者では解決できるものも解決もできまい。兼松左知子って人やそれに類する人たちである。

リサの問題は「個」の問題である。「個」の問題は「個」の問題として解決するしかなく、それに適した方法がある。にもかかわらず、それを性風俗産業の問題にすり替えようと躍起になっているのが兼松左知子だ。そうしないと食いっぱぐれるからだ。

リサの物語を見ても、出てくる性風俗店は何も悪くない。Aマッサージ店のママは優しい。なのに、これを規制してどうするというのか。自己満足もいい加減にしろ。

このように、性労働はあらゆる問題の責任を押し付けられやすい傾向があって、時には自分のだらしなさをも性労働という職業のせいにして責任逃れをする個人もいる。これを支えるのが、性労働が悲惨であると言いたがる兼松左知子のような人々だ。こうして物事の本質は曖昧にされてしまい、ただ性労働はいけないという根拠なきイメージだけがばらまかれる。

リサの場合、ことによると性労働のギャラがいい分、その悲惨さはいくらか薄らいだとさえ言えるかもしれない。金がなければ、保釈金を払うこともできず、須田の借金を肩代わりもできず、自分の入院費だって出せなかっただろう。リサのように短期間で大金を得るために、性労働に従事する選択をするのがいても全然おかしくない。しかし、性労働の前に、そのひどい環境が予め存在していて、性労働によってひどい環境が初めて生起するわけではないのだ。

リサがソープでの労働を選択したのは、ギャラがいいからである。女でも免許があれば、トラックの運転などの肉体労働に就いて高収入を得られるわけで、ひどい環境にある人が肉体労働に従事したところで、労働そのものが否定されなければならない所以はない。

 ※こういう押しつけ、すり替えは差別においてよく見られる。たとえば在日コリアンが何かの犯罪で捕まると、在日コリアンのすべてが犯罪者かのように喧伝する。差別したい人たちはそれが全体の中でどういう意味を持つかを考えようともしない。実際には意味など持たないわけだが。性風俗において、数字をごまかしてまでそれをやっているのが兼松左知子だ。サイテーの人間だと思う。

 

 

所詮こんな例しか出せない兼松左知子

 

vivanon_sentenceこの本は性風俗の業種が章タイトルに使用されていて、前回の話は「グラビアの女」として紹介されている。ひどすぎる。たまたま宣伝のために彼女は雑誌に出ただけではないか。

この物語の悲惨さと性風俗は直結していないのに、雑誌のグラビアに出る「ルンルン女性」の代表として登場させることは大きな間違い。その後、彼女が美容師の資格をとり、美容雑誌で話題の美容師として取り上げられたとしたのなら、その時に兼松さんは「これが明るくオシャレな美容業界のトップを走るルンルン女性の本当の物語であった」と書いて、美容業界を罵るしかないだろう。

高里鈴代という人のやり口も同じ。

 

 

ソープランドをみていると、みんなインタビューには応えてくれるけど、現実はかなり暴力団に管理されていたり、麻薬だけでなくて精神的な薬でまひしているパーセンテージは、決して低くないのです。

 

 

百歩譲って、この高里さんの言葉が仮に事実だとしたって、リサが暴力団員との関係を持ち、シャブを入手するための資金をも得るためにソープランドで働いた例を考えるなら、性労働自体を否定する根拠には何らなり得ないことがおわかりになることだろう。

 

 

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