松沢呉一のビバノン・ライフ

『工場』『奴隷』『無限の鐘』の一部と文庫の一部—高井としを著『わたしの「女工哀史」』のもやもや 11-(松沢呉一) -2,450文字-

岩波文庫「女工哀史」の印税は改造社へ—高井としを著『わたしの「女工哀史」』のもやもや 10」の続きです。

 

 

 

改造社は著作権譲渡契約だと主張した可能性が高い

 

vivanon_sentence最初に読んだ時には気づいてなかったのですが、岩波文庫が支払った『女工哀史』の印税については、『わたしの「女工哀史」』の解説の注に出ていました。

 

岩波書店で調べてもらったところ、岩波文庫版の最後の支払い先(一九五五年)は著者とは関係が不詳な個人名だった。

 

これは斎藤美奈子による注です。

この時点では山本某が誰なのかわかっていなかったのかもしれないですが、不信感を高める記述です。山本実彦の妻だとわかっていたのであれば、「山本実彦社長の遺族」と書くべきだったでしょう。そうしてくれていれば前回書いたような推測ができるのに。

一九五五年が支払いの最後ですから、著作権切れとともに支払い終了だったのですね。ここにこの問題の解決法があったかもしれない。これについてはずっとあとで検討します。

著作権譲渡契約が成立していないにもかかわらず、そうであったかのように改造社が岩波書店に主張した可能性はあるでしょう。

としをの記述によると、この件については山本実彦自身が担当していたようです(別の資料で確認する必要がありそうですが)。その担当者が亡くなり、著者もとっくに亡くなっている。その著作権は法的には継承者がいない。

その時に改造社が著作権を所有していると主張すれば支払うでしょう。出版社同士のことなので、著作者との契約書なんて確認しないと思います。

※青山霊園に行こうとして地下鉄千代田線の乃木坂駅で降りたら、地下鉄構内とつながっている国立新美術館の建物に迷い込んでしまい、どこから外に出られるのかもわからず、往生してしまいました。草間彌生展をやっていたので、ついでに観ていこうと思ったのですが、長蛇の列にめげました。チケットを買うだけで三十分、入るためにまた三十分くらいは並びそう(入った人にあとから聞いたのですが、これは物販の列だったかもしれず、入るのは五分程度だったとのこと)。水玉おばさんはそんなに人気があるのか。このあと青山霊園に行き、敷地に入って三十秒もかからず「無名戦士墓」を発見。広い青山霊園では探しようがないので、まず管理事務所に行くつもりだったのに、呼ばれているかのように感じました。私が死んだらここに入るのもいいのですが、戦後は共産党関係の人たちが多いようなので話が合わないかも。そうじゃなくても面倒臭い人が多そうだから、墓の中で落ち着けない。面倒臭いのは私もか。

 

 

『工場』など三冊の単行本の一部と岩波文庫の一部

 

vivanon_sentenceとしをは改造社は潰れたと書いてますが、正確には出版事業からの撤退だと思います。会社が潰れていたのであれば契約は消滅ということになるかもしれないし、改めて岩波も著作権継承者を探したかもしれないですが、今なお改造社は書籍販売業として存続しています。

 

 

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