松沢呉一のビバノン・ライフ

細井和喜蔵遺志会に渡った金の額—高井としを著『わたしの「女工哀史」』のもやもや 13-(松沢呉一) -2,777文字-

未払い分を概算する—高井としを著『わたしの「女工哀史」』のもやもや 12」の続きです。

 

 

 

墓の費用

 

vivanon_sentence私の見積もりでは前回書いた数字がざっくりした「著作権継承者だったら手に入れられた印税」です。前提がアバウトですから、すべてがアバウト。もっと多いかもしれないし、少ないかもしれないですが、考え方としては間違っていないと思います。「としをが法的に認められる著作権継承者だったとして」ってことです。

現にとしをは法的継承者ではないのに二千円をもらったのですから、そんなに悪い話とは思えません。

比較的慎重な「東京新聞」でも、著作権が生きている間の『女工哀史』の全額分が払われるべきだったと考えているようなので、私の見積もりの十倍くらいを想定しているでしょう。あり得ません。

やはり、『女工哀史』が買い取りであったという点が錯覚を生じさせるのだろうと思います。はっきりそう書いてあるにもかかわらず、としを自身がそうではないかのようなことを言っているために、いつの間にかそのこと忘れてしまう人が多いのでしょう。あるいは、そう理解していても、買い取りのものが売れてしまった不幸がここに重なって、「本当だったら」と思ってしまうわけです。

では、続いていくらが遺志会に支払われたのかを計算してみましょう。

私のアバウト極まりない計算では、改造社版『女工哀史』の印税があったとしたら、五千万円くらい。改造社の戦後版がどれだけ売れたのか想像もつかないですが、仮に三千万円が戦前分、残りが戦後分だとしましょう。ここももちろんアバウト。

遺志会にいつまで印税相当額が支払われたのかわからないですが、墓ができるまでは支払われたとして、約十年間。この頃にはたぶん『女工哀史』は出しづらくなっていたでしょうから、以降の分は無視します。

三千万円に、他の著書の印税のうち、としをに支払われた以降の分の三百万円が加えられて、遺志会に支払われています。それが「無名戦士墓」に使われました。

これは「印税相当分をすべて払ったとして」です。もともとは払う必要がないものですから、もっと早くに打ち切っていたとしても文句を言える筋合いではないし、額を減らしたとしても文句は言えない。

 

 

三冊の単行本の印税ではおそらく『無名戦士墓』には足りなかった

 

vivanon_sentenceその趣旨通り、「無名戦士墓」は決して立派なものではありません。狭くはないですけど、個人の墓でもよくある程度の広さに台があり、石が置かれている。石を見て価格がわかるほどの墓石の通ではないので、私では正確な評価は不可能ですけど、普通の墓石よりは高くても、べらぼうな金額ではないと思います。

 

 

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