松沢呉一のビバノン・ライフ

オランダのテレビクルーに気づかされたこと—オランダに学ぶ 1-[ビバノン循環湯 262] (松沢呉一) -3,349文字-

メトロポリタン美術館のパプリックドメイン作品を無理矢理使う」シリーズです。オランダの作品を集めてみました。メリハリをつけるために、オランダ人を描いた日本の作品も入れておきました。

オランダのテレビクルーが来日した時の話は「オランダのTVは夜9時以降は性器も挿入シーンも・・・権力批判と依存の関係」に書きました。これは十年以上前の話になります。

来日中にネットで書いていたこと、そのあと雑誌に書いていたことを読み直したら、「オランダでは午後九時以降は性器が地上波のテレビでも出ることがあり、挿入シーンさえも放送される」「子どもの躾ができない親の尻拭いを社会がする必要はない」「彼らが日本は異常と感じるのは性器を未だに表現できないこと」以外にも大事な内容が語られていました。彼らが「日本のAVは暴力的」と感じたのは「SMもの、レイプもの」を意味するのではなく、日本人のほとんどが実践しているセックスそのものが暴力的と感じるってことだったのです。私は全然違いますが、性風俗、性行動、性表現を規制している人たちのセックスこそが暴力的と感じると言ってもいい。これは目からウロコかと思います。内容が重複しますが、循環しておく価値がありましょう。

今回出すのはネットで書いていたものと、音楽雑誌「ロック画報」に書いたものを合体させたものです。

今回補足した部分は※で表示しています。

 

 

 

オランダのテレビ局の取材で知った「海外」の性表現事情

 

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このところオランダのテレビ取材に協力していて、先週の土曜日も彼らにつき合いました。

彼らは日本のSMシーンにたいそう興味をもったようなので、土曜日は池袋のSMバー「ルビー」に連れていきました。ここはM専の店で、在籍者のほとんどは女王様。女王様とプレイもできるし、単に酒を飲んだり、ダベッたりすることもできます(※この頃は警察がうるさくなかったので、客がチンコを出したりしていたものですが、今は無理。「ルビー」自体、現在は営業しておらず)。

ちなみに私はこの店のはるちゃんが好き。はるちゃんは私をいじめたがっているみたいで、はるちゃんにだったら何されてもいいや。この間、縛られたし。

日本からすると、ベネルクス三国はSMが盛んなようにも思え、特にオランダは、身体改造系のコンベンションでよく知られていますが、彼らによると、日本のような店があるのではなく、SM愛好家たちは目立たないところでひっそりとやっているため、その外にいるとわからないとのことです。ゾーニングが徹底しているのですね。

彼らは彼らで日本の性事情に興味を抱いたわけですが、私は私でオランダの性事情に大いに興味を抱きました。

Thomas de Keyser「A Musician and His Daughter」

 

 

夜の九時から性器も挿入もOK

 

vivanon_sentenceその撮影中に聞いた話で何が驚いたって、今回の取材は地上波のゴールデンに放送されている番組用だってことです。ふたつのクルーがそれぞれずっと世界中を旅して「世界各地の性のありよう」を取材しています。考えてみれば、深夜番組じゃそんな予算は出ない。

このコーディネイトをしていたのは、日本の大学に研究者として赴任したオランダ人の社会学者です(※原文には名前が入ってましたが、日本での活動がしにくくなったりするとよくないので、ここでは外しておきます)。彼によると、「日本で言えばTBSのような局」とのこと。サンテレビじゃないのか。サンテレビだとゴールデンでもそんな予算は出ないか。

夜の九時からの番組で、M女が逆さ吊りにされ、ムチで打たれているところをオンエアしていいのかと私は心配になったのですが、全然問題なし。日本だったら、十一時過ぎの「深夜」と呼ばれる時間帯じゃないと無理でしょう。その時間帯だって、あんなハードなものは出せない。

ただし、その番組でも一回だけオンエアできないものがあったそうです。ドイツの取材をした時に撮影した、チンコを切断するシーンです。身体改造の人たちやマゾたちは、チンコを割ったり、切ったりしますからね。

そういう例外もありますが、オランダでは、夜の九時以降、チンコもマンコもハメているところもオンエアしていいのです。CATVや衛星ではなく、地上波ですよ! ゴールデンですよ! TBSですよ!

売る売らないはワタシが決める』で、ドイツでは夜の十二時以降は、性器を出していても、挿入していてもオンエアしていいと書きましたが、オランダはもっと時間帯が早いのでありました。

風俗産業で働く女性が、公共の放送のテレビ番組アイドルのように紹介される国など一体他にあるだろうか」なんて書いていた櫻井よしこはオランダに行ってみればいいのに(『売る売らないはワタシが決める』参照)。都合のいいところで「日本は特別」としながら、都合のいいところで「他国を見習え」とやるからこういうことになる。自分の都合よりも、「事実はどうなのか」を優先すべし。

Utagawa Yoshitora「Oranda Dutch Printers」

 

 

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