松沢呉一のビバノン・ライフ

愛人を作っては切り—知られざる「接待クラブ」 4(最終回)-[ビバノン循環湯 269] (松沢呉一)-3,480文字-

穴兄弟と棒姉妹—知られざる「接待クラブ」 3」の続きです。

 

 

 

中途半端な人々が集う店

 

vivanon_sentence—で、愛人は作った?

「うん、もう全部切ったけどね。だから、一年間、その店に所属していても、店に出ていたのは実質二ヶ月か三ヶ月かな。客は必ずルーズになるんだよ。買い物や映画につきあわせたりして、結局セックスなしで収入ゼロ。ただ働きかよ、みたいな。そろそろそこの段階に入ったなと悟ると連絡を断って、また接待クラブに戻って次を補充(笑)」

—そんなあっさりと。

「家や本名なんて絶対に教えないから、それでおしまい。だいたいその辺のノウハウは女の子同士で教え合うから、ほとんどの子たちがそうしていたと思うよ。すっきり関係を切れることは私も気に入っていた。私は相手を厳選していたから、まあまあのをゲットしたよ。ある人は海外の仕事が多くて、一緒に連れていってくれる。出張手当はないけど、旅費も滞在費も全部出してくれて買い物もさせてくれるから楽しかったな。十年後、その人のことはきっと覚えてないけど、海外の風景は覚えている(笑)」

—当然、金を持っている客が多いわけだ。

「中途半端なんだけど、そこそこ使える金は持っている。中途半端な会社の社長とか、中途半端な芸能人とか」

彼女は相手をしたことがないが、店に来ている芸能人の名前を教えてくれた。ある世代以上は誰もが知っているが、今はテレビで見かけることもなくて、ある世代以下はほとんど知らないかもしれない。たしかに中途半端なんである。

「本当にお金を持っている人だったら、銀座のクラブのホステスを愛人にして店を持たせたりするんだろうけど、そこまでのお金や度量はない。人間的に魅力のある人だったらお金がなくても遊べるけど、それもない。客に共通しているのは、金がなければゼーッタイにモテないタイプ。でも、プライドだけはあるから、“オレは風俗に行くほど困ってはいない”って態度をしたがる。自分ではカッコつけているつもりなんだけど、それがまたカッコ悪くて、“おまえはどこに来てそんなことを言ってんだ”って突っ込みたくなる(笑)。突っ込みたくなる自分を抑えるのが大変だった」

—風俗に行ったとしても、「自分ではこんなところに来ないんだけど、友だちに連れて来られてさ」とかって言い訳をするタイプ。

「いるよね、そういう客。その段階でダッセエって思う」

Thomas Rowlandson「Liberality and Desire」

 

 

男と女のバランスがとれている

 

vivanon_sentence「でも、接待クラブでは女の子もそれに見合っているんだよ。キャバや風俗でバリバリ稼ぐタイプではない中途半端なのが多くて、“私は風俗なんてやりません”みたいなことを言いたがる。“おまえはどこに来てそんなことを言ってんだ”ってこっちにも突っ込みたくなる自分を抑えるので一生懸命だったよ(笑)」

 

 

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