松沢呉一のビバノン・ライフ

朝の道玄坂にて—セフレは友だち 1-[ビバノン循環湯 297] (松沢呉一) -2,978文字-

かれこれ七年か八年ほど前にメルマガに書いたものです。冒頭のエピソードは実際の状況、実際の会話とほとんど同じですが、誤メールについては聞いた話を大幅にアレンジしています。細かく説明すると面倒なので。

 

 

 

セックスもする友だち

 

vivanon_sentence朝早く、渋谷道玄坂の喫茶店で小娘とこんな会話をした。

「ねえねえ、私たちって、他の人たちからしたら、どんな関係に見えるのかな」

「援交カップルじゃないか」

「でも、援交だったら、こんな朝早くから一緒にいる?」

「特別料金を払って、“朝までコース”でハメていたんじゃないか」

「えー、親子に見えないのかな」

年齢的にはたしかに親と子である。

「ほとんどの親子はこんな朝早くからラブホ街の近くでのどかに朝食を食ってないだろ」

店にいる人たちはおそらく出勤途中の人たちばかりだ。ラッシュ時間になる前に家を出て、仕事が始まる前に職場の近くで朝食を済ませる人たちだろう。

「恋愛関係にある会社の上司と部下もあり得るけど、誰に見られるかもわからんのに、ラブホ街の近くで揃って朝飯を食わないと思うな。それにワシらの格好を見ればこれから会社に行くところとは思えないだろ」

私はTシャツの上に柄物のシャツを羽織っていて、彼女はヒラヒラのついた半袖シャツにヒラヒラのスカートだ。

Jane Martha St. John「Mr and Mrs W. Beach」

 

 

私たちは友だちじゃん

 

vivanon_sentence金のためと割り切った援交だと、仲良く朝食を摂ったりしそうにないので、もっとも妥当な見方は愛人関係だろう。

「そうか、愛人に見えるのか。やば」

「おめえが朝飯を食おうと言ったんじゃねえか」

「だって、ホテルから出てすぐにバイバイって寂しくない?」

「そうだな」

私は別れ際の切れがいいので、ホントはそんなに寂しくないけれど、話を合わせてみた。

「気になるんだったら、部屋で朝食を摂るのがベストかもね」

「そうか。でも、現実に私たちは友だちじゃん。友だちには見えないのかなあ」

セックスをする友だちである。私がこういう小娘のことを「ダチ」と書いていると、「オヤジがダチと思っているだけだろう」と言われてしまうのだが、事実、彼女も私をダチと思っているんである。

「若い男女ならそういう関係があり得ると思う人たちでも、40代のオッサンと20代の小娘の間にダチという関係があるとは思わないだろうな。ましてダチなのにラブホに行く関係が成立するとも想像できない人は多いかもな」

時には私の方が彼女にラブホ代を出してもらったり、メシ代を出してもらって援助してもらっているとは想像もつくまい。

私らがどういう関係に見えるのかよりも、なんで彼女は援交でもないのに私とラブホに行くんだろ。そのことの方が私には難問であった。

Julia Margaret Cameron「Alfred Tennyson’s Idylls of the King, and other Poems」

 

 

もし加藤鷹宛のメールが届いたら

 

vivanon_sentence続いてのセフレについての話。

年下の知人に珍しい相談をされた。

「もし松沢さんのセクフレから、間違って加藤鷹に向けたメールが送られてきて、“明日、セックスするのを楽しみにしている”って書かれていたら嫉妬します?」

私は「セフレ」と言うが、彼は「セクフレ」と言う。「メアド」と言う人と「メルアド」と言う人がいるのと似てるかな。私は「メアド」である。節約が好きなので、たいがい私は短い方を選択することにしている。ただし、風俗店では金が許す限り長い時間を選択することにしている。

「相手次第だろうね。加藤鷹だったらいいんじゃないかな。一目置ける人間だから。場合によっては嬉しくさえあるかも。でも、自分が軽蔑している人や嫌いな人だったらムカつくだろうね。もしすごく仲のいいヤツだったら、“あいつもヤッていたか”ってともあれ驚いて、嫉妬するかどうかは、そのあとのことだろうけど、仲がいいってことは好きってことだったり、敬意を払えるってことだから、これもたいていは許せると思うな。でも、一概には言えなくて、状況次第、相手次第、こっちの気分次第かな」

「もし相手が全然知らない人だったら?」

「それも状況次第。その存在を知っているかどうかによっても印象は違ってきて、たとえばその彼女に夫や彼氏がいることを最初から知っていて、夫や彼氏に宛てたメールを送ってきた場合は、なんとも思わないだろうね。実際、ダンナ宛のメールを間違って送ってきたのはいるよ。ホテルから出て別れたあとで、“今から帰るね”ってメールが届いた。オレに送るメールを間違ってダンナに送ったんじゃなかったのが不幸中の幸いだとホッとして、彼女には注意しておいた」

 

 

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