松沢呉一のビバノン・ライフ

アナル・セックスを広めた『O嬢の物語』—「PocketパンチOh!」掲載のアヌス・セックス小説[ビバノン循環湯 273] (松沢呉一) -2,786文字-

「スナイパー」の連載です。タイトルに「アナル・セックス」「アヌス・セックス」が併記されているのは間違いではありません。前者は現在一般に使用されている用語、後者は当時使われていた用語。詳しくは本文参照。

 

 

 

青春の「PocketパンチOh!

 

vivanon_sentence平凡パンチ」は今の中高年にとっては思い入れの強い週刊誌ですが、高校時代の私はそれより姉妹誌の「PocketパンチOh!」が好きでした。「平凡パンチ」本体よりエロかったからなのですが、最近、この雑誌を立て続けに読んだら、私の記憶よりもずっとおとなしいし、エロ記事も少ない。私の青春はどこへ。

子どもの頃に見た建物が記憶の中で拡大されてしまうように、高校生の私にとっては、この程度でも刺激が強かったのでしょう。それと、当時はグラビアだけ見ていて、記事はあまり読んでいなかったためだと思われます。グラビアも今見るとたいしたことはないですが、「平凡パンチ」よりはハードで、たまにからみもあります。これも今見ると思い切りソフトですけど。

ほぼ毎号、飲み屋や性風俗をガイドするページはあっても、高校生の私には役に立てようがないので読んでませんでした。全体としても、エロ記事は決して多くなくて、ギャンブル、ファッション、車、政治、社会問題、ビジネスなど幅広い情報を扱っています。もっと大人になってから読んだら面白かったかもしれない。

特に小説はまったく読んでいなかったのですが、吉行淳之介、川上宗薫、田中小実昌、筒井康隆、菊村到、南條範夫、藤本義一、小松左京、梶山季之など、錚々たるメンツが執筆しています。当時の大人の読者はこれを楽しみにしていた人も多そうです。

この頃の官能小説の中ではSMはすっかり定着していて、「PocketパンチOh!」の記事ではほとんど見かけないのに、小説ではSMをテーマにしたものやSM的な描写がしばしば見られます。

 

 

夫の変な要求

 

vivanon_sentenceその中から、今回は1972年2月号に掲載されたちょっと変わった小説を紹介しましょう。

「PocketパンチOh!」は、ある時期から、表紙で当時の人気歌手やモデルを起用していて、エロ本なのに、人気歌手やタレントが出ています。この号の表紙は天地真理。私はまったく興味がなかったのですが、天地真理が人気絶頂だった頃です。天地真理は別格で、複数の号で表紙を飾ってます。

この号は新春特大号で、「6大読切傑作小説集」が掲載されていて、そのひとつが北原武夫の「女の怪しい裏側」。

主人公は医者で、セックス・コンサルタントもやっています。ある日、そこにやってきた28歳の人妻は、夫がしつこく「変な要求をする」と相談する。言いづらそうに語られたその要求とは、「後ろに入れたがること」でした。

アナル・セックスのことですが、ここではアヌス・セックスと書かれています。たぶんアヌスという言葉は言いにくいためだと思いますが、今は形容詞の「アナル」を名詞でも使用するようになってます。「私のアナルをなめてぇ〜」とか「オレのアナルに指を入れてくれ」など。

しかし、この頃は、正しく名詞形の「アヌス」が使用されていました。「〜セックス」の場合は形容詞で「アナル・セックス」でもいいのですけど、単体だと名詞のアヌスじゃないと本来はおかしい。日本語の中の外来語なので、適当でいいですけど。

その夫婦は結婚して二年八ヶ月になり、そろそろ夫は刺激が欲しくなって、さまざまな本を読んだり、人に聞いた知識を実践したがり、『O嬢の物語』を読んで以降、アヌス・セックスをしたがると言うのです。

彼女は嫌がりながらも受け入れていて、そんなことをしてもいいのかを相談に来たのでした。

この話を聞いて主人公の心の中に苦い記憶が甦ります。

 

 

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