松沢呉一のビバノン・ライフ

警察へ—酒に薬物を入れられた? 下-[ビバノン循環湯 285] (松沢呉一) -9,081文字-

私の携帯電話に出たのは誰?—酒に薬物を入れられた? 中」の続きです。これでおしまい。

 

 

 

2006年12月27日(水)

 

vivanon_sentence今回のことで初めて栄子さんの彼氏であるガッツ石松さんと電話で話した。

「いろいろご迷惑をおかけしまして」

「いえいえ」

ここまで栄子さんに聞いていたことを改めてガッツさんに確認した。

「最初に電話がつながった時にしばらく誰も出なかったんですね。それで“もしもし”と言っていたら男が出て、“栄子を出せ”と言ったら、“うるせえ”と言って切られたんですよ。こっちはそれでもう腹が立ちますから、ずっと電話をしていたんです」

栄子さんは午前3時台と言っていたのだが、ガッツさんによると、4時台のことだそうだ。テーブルが減って、席替えがあって以降のことだから、私も記憶があやふやな時間帯だ。

その時間に電話して男が出たら、確かに心配だ。浮気をしていたら、浮気相手が出ることはないだろうが、他にもいろんな想像ができる。事実、心配するような状況にあったわけで。

「2回目につながった時は無言のまま切られて、3回目につながった時に、“お前は誰だよ”“誰だっていいだろ”と15秒程度ですけど、話しているんですね。でも、“バカ”と切られた。最初はバックにかすかに音が聞こえていたので、トイレかもしれないんだけど、3度目の時はまったくの無音だったんですよ。だから、店から出たんでしょう」

大胆である。歌舞伎町と言っても、この辺は深夜の人通りがほとんどない。ラブホ街に隣接しつつも、通りには東横インがあるだけなので、たまにその利用者が通るのと、タクシーが裏道として抜けていくことがある程度。店も少なく、外に出れば音はしない。

栄子さんが携帯がないことに気づいたら、どうするつもりだったのだろう。栄子さんも酔っていたから、素知らぬふりをしてテーブルの上に置いたのか。

「その間、ずっと僕は電話しているので、出ようと思って出たんじゃなくて、うっかり出てしまったんだと思うんですよね。その声ははっきり覚えていて、そのあと非通知でHのところに電話をして、間違いなく同じ声でした」

考えつかなかったのもやむなしではあるが、誰が出たのかはっきりさせるため、録音をすべきだった。

これでHが三次会に来なかった理由がわかった。誰も声をかけなかったわけだが、二次会だって誰も声をかけていない。クスリを入れていたとしたら、その効果が出るところを確認するはずだが、二次会のカラオケバブを出る直前までHは携帯を持って外に出ていたと思われる。ということはガッツさんがまた電話をしてきて、栄子さんと話す可能性があって、そうなると、「さっき出たのは誰だよ」ということになる。その発覚を恐れたのだろう。

「栄子の電話は着信拒否にしていても、ずっとかけてきているんですよ。全部記録は残しています」

着信拒否にしても、かけてきた記録は出るのか。決定的な証拠にはならないが、状況証拠にはなる。着信拒否をされると、どういう状態になるのか知らなかったのだが、「拒否されました」なんてアナウンスが流れるのではなくて、電話してもまったくつながらない状態になるそうで、Hは拒否されていることに気づいていないのだろう。

ガッツさんは激昂しやすいタイプで、直接電話をしたいと言う。「よしなさい」と諌めておいた。ヤツがしらばっくれたらそれまでのことだ。

※たしかこのビルの2階か3階だった

 

 

2007年12月28日(木)

 

vivanon_sentenceこの日も忘年会である。たまたまそこに元M出版の間宮林蔵君が来ていて、この話をしたところ、思わぬ情報が出てきた。

間宮君は、以前、M出版の編集者に紹介されてHに会っていると言う。

「当時、M出版で、ゲームのノベライゼーションを出していて、そのライターを彼はやっていたはずです」

出版社名は出てないが、Hがくれたプロフィールにもノベライゼーションをやっていたとあるし、この本についてはAmazonで確認できる。

「M出版の忘年会に来たこともあって、その時に、同じテーブルにいた女性から、“あの人はなんですか”とクレームがついたんですよ。詳しい内容は覚えてないですが」

私は男だから、「ウザい」「クドい」「つまらない」としか感じなかったが、おそらく女に対しては、より不快にさせる言葉、態度を示すのではないかとも思う。肩を抱いたり、手を握ったり、無闇にくどいたり。

栄子さんも「気持ちが悪い」と言っていたが、「気持ちが悪い」というほどの嫌悪感は私にはなく、女たちの勘とでも言うべきものが何かを感じ取るのかもしれない。もちろん、今となっては私も気持ち悪い。

この編集者はすでに退社しているため、ここから調査を進めることは難しいのが残念。

※早朝の歌舞伎町。パンツ丸出しでしゃがんだ、おそらく十代の二人にホスト風が声をかけているところ。

 

 

vivanon_sentenceところが、間宮君が帰ったあと、さらに予想外の展開になった。たまたまその近くにいた山本寛斎さんが私のところに近づいてきて、名刺を出して挨拶をしてきた。私は面識のない人物である。

「今の話を聞いてしまったんですけど、それって虚言癖の男ですよね」

偶然、この場にHを知っている人がいたのだ。この山本寛斎さんは、小さな芸能プロダクションをやっている。ここに所属する平塚らいてうさん(タレントさんに芸能人の名前を使用すると混乱しそうなので)というグラビアアイドルにHがアプローチしてきたことがあると言うではないか。

 

 

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