松沢呉一のビバノン・ライフ

昭和二二年に全裸のSMショー—日本初のSMショーかも-[ビバノン循環湯 290] (松沢呉一) -2,464文字-

「スナイパー」の連載に書いたものです。

 

 

 

「猟奇新聞」がレポートする秘密ショウ

 

vivanon_sentence最近はSMバーやストリップ劇場でお気楽にSMショーが見られるようになっているわけですが、実は戦後間もなくでも見られたのです。お気楽ではないですが。

実話読物新聞」というカストリ新聞がありまして、猟奇犯罪記事満載です。この前身が「旬刊猟奇新聞」です。「実話読物新聞」になって以降よりも、「猟奇新聞」の方がしっかり取材した記事が多い印象があります。リニューアルするってことは売れなくなったのでしょうし、取材している余裕がなくなったのだと推測できます。ウソ記事であっても、派手で扇情的な記事を出した方が売れるという事情もあったのかもしれません。

この「猟奇新聞」四号(昭和二二年十一月二五日発行)の1面に、「裸体の男女が鞭の遊戯 表情の芝居『肉体の春』 深夜の秘密劇場」という見出しが踊ります。秘密ショウの観覧記です。

この頃の秘密ショウは、ノーカットのエロ映画(まだ「ブルーフィルム」という言葉はない)の上映と、実演ショウ(「本番ショー」「白黒ショー」という言葉もない)をカップリングしたものが多いのですが、この記事に出ている秘密ショウはちょっと趣が違います。

レビュー劇団が、より迫真の演技を見せるために深夜も特訓をしていて、特別にその模様を見せるという触れ込みで、内密に観客を集めたもので、記者は客として潜入します。

 

 

拍手も厳禁

 

vivanon_sentence入口で「手を叩いてはいけない、大声を出してはいけない」といった秘密協定を誓わされ、記者は通常の公演を終えた深夜の劇場に入ります。

出し物のタイトルは「肉体の春」。パンパンの生態を描いた田村泰次郎著『肉体の門』(風雪社)が出版されたのは、ちょうどこの一ヶ月前のことで、さっそくそのタイトルを流用しています。この小説ではリンチ・シーンが話題となっていて、それを期待させます。

時間になっても始まらず、今か今かと待っていると、ちょびひげの案内役が登場。観客達は右手を挙げます。拍手の代わりに手を挙げるお約束なのです。音が外に漏れると困るということなのでしょうが、この日の出し物はセリフもなしと案内役が説明します。実際のところは、セリフを覚えるのが面倒ってことだったのかも。

案内役が消えると、いよいよ幕が上がって、舞台では若い男女が立っており、いきなり接吻をします。男が女の肩に手をやると、女の服が脱げて早くも一糸まとわぬ全裸に。

男は慌てて女の秘部を手で隠そうとするのですが、女は「そんなことは不要」とばかりに男の服をはぎ取り、男も全裸になります。

 

 

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