松沢呉一のビバノン・ライフ

ウソ記事の作られ方—客の情報 上-[ビバノン循環湯 291] (松沢呉一) -3,277文字-

昨日、Facebookで教えられた「とよまゆ伝説」には「豊田真由子さんと私の関わり」のようなイヤな印象がなく、こちらは肯定できます。何がどう違うのかと言えば、「こんな呆れた人物だ」という文章の目的が明確であり、その目的に沿って暴露がなされている点が違う。感情を抑制できず、自己の利益のためには理不尽なことを主張し、根拠なく他者を貶めることにためらいがない。これは今回の事件とも直結します。また、「ここには書けない話をいくつか知ってる」としており、書かなかった話もあることがわかります。この文章の目的と暴露している事実との間にズレがなく、「出していいこと・悪いこと」という基準をこの人は持っていて、無意味にプライバシーを晒しているわけではない。

対して「豊田真由子さんと私の関わり」については、最初に読んだ時から「何のために書いたんだろ」と戸惑い、その暴露のひとつひとつについて「必然性がない」という点にひっかかりまして、Facebookで私は「必然性がない」という言葉を繰り返しています。とよまゆの子どもが読むことを前提とする文章で書く必要のない内容が満載です。仮にこちらも「こんな呆れた人物だ」という目的の文章であればまだしも納得しやすいのですが、それにしても書く必要がないプライバシーまで晒しています。表向きの目的と内容が合致していないことと、「晒していいこと・悪いこと」の基準がないことが、この文章を私が受け入れられない理由になっています。

下半身ネタであっても、彼女がトラブルを起こし続けていたというのであれば、それもまた人間性を疑わせ、今回の事件の背景を探る一助になりますから、晒していいという判断もあり得ると思いますけどね。

では、「豊田真由子議員の暴行事件—政治家のプライバシーについて」に書いた、私にとってのプライバシー、とくに下半身についての暴露についての感覚が、よく出た原稿を循環しておきます。

風俗嬢でも、客のことをペラペラ話すのがいます。飲み屋の雑談として語るのはいいとして、メディアで誰なのかわかるような形で語るのはダメだと思うんですよね。語るなら、特定できなくする。私自身、そうしてきています。そりゃ、名前を出した方が受けるに決まってますけど、それは「正当性の確信」がない限りできない。

この原稿でも個人を特定できなくしていますが、それでもすぐには出さない方がいいと思って寝かせているうちに、出す機会がなくなって、メルマガ読者限定のevernoteが初公開のはず。配慮しすぎか。

いつものように写真は本文と関係がありません。

 

 

 

ウソ取材報告

 

vivanon_sentence「お元気ですか? 今松沢さんのことを考えていて、どうしてるのかなと思って」

長いつきあいになるヘルス嬢からそんな電話があった。

彼女は何度会っても丁寧な言葉使いを崩さない。私はどちらかと言えば、仲良くなるにつれタメ口になる方が好きなのだけれど、彼女はただ丁寧なだけでなく、いつも人を喜ばせる言い方をする。だから人気があるのだろう。

「この間、週刊誌の取材を受けましたよ。顔は出さないで、話だけですけど」

「なんの取材?」

「有名人の客について」

「有名人の客についたことなんてあったっけ?」

彼女はなんでも報告してくれるのだが、そんな話は聞いたことがない。

「松沢さんが一番有名かも」

「悲しくなってくる話だな。だったら、そんな取材を受けられないだろ」

「店に頼まれたんですよ。うちの店に××が来たことがあるんですよね」

「ナニ? 有名になってからか」

「そう。来た時にすぐに私も店の人から聞いてビックリしたくらいだから」

超人気ヴォーカリストだ。若い女性には絶大な人気がありそう。

「いくらでも相手はいると思うんですけど、ファンとするわけにはいかないので、風俗店で処理しているんじゃないですか」

「女のタレントを要領よくくどくタイプとも思えないし」

「真面目そうですよね。その時に相手をしたコはもう辞めてしまっているので、私が会ったことにして欲しいって店に頼まれたんですよ」

よくある話である。どういう形であっても雑誌に取り上げられることを歓迎する店があって、取材する側にとってはありがたいのだが、これが行き過ぎると、ウソでもいいから出てしまえってことになる。

以前書いたが、知り合いの風俗嬢で「処女の風俗嬢」として雑誌に出たのまでいる。雑誌としても、薄々ウソだと気づいたところで、面白ければいいんである。ただし、本物の処女も風俗店にはいるので、全部が全部ウソというわけでもない。

「でも、直接私が接客したわけじゃないから、話すことがなくて困ってしまいました。“どんなことしましたか?”って聞かれても“普通でした”としか言えないじゃないですか」

 

 

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