松沢呉一のビバノン・ライフ

美容業界と性風俗業界を比較する—性差別とされるものの中身 1-(松沢呉一) -2,915文字-

 

美容院の搾取率

 

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カリスマ・カットモデルになりたい—美容院でカットモデルを初体験 下」に書いたように、美容師の給料は安い。オーナーにならないと儲からないのです。あの話を聞いた頃に比べ、今は新規オープンする美容院の数は減って、ブームは完全に終わったと言ってよさそうですが、労働環境の悪さは相変わらずのようです。

美容師によるブログ「桑原淳 旅人美容師の1000人ヘアカット世界一周の旅」に、「美容師が担当したお客の売り上げのうち、何パーセントが美容師自身の収入になるか」という話が書かれています。これは固定給以外の歩合の部分だけを計算したものですが、半分以上が10パーセント以下。

ここに出ている計算モデルは流行っている店の設定ですが、「一人の美容師が担当する売り上げ」に対して「固定+歩合」の給与分は3割以下です。カットだけではなく、支払う料金が高い客もいるでしょうから、最大限働いた場合の収入はもっと多くなりますけど、全体に占める固定分の率が落ちるので、売り上げに対する収入の率も落ちるはずです。

そこそこ流行っている店でも、今現在、時給計算では1000円に満たないことが多い。専門学校を出て国家資格を得て、これは安い。立ちっぱなしで、手を切ったり、火傷したり、荒れたりもする。薄汚い格好はできず、独立するための技術を身につけるためには時間外でも自腹で探究する必要がありますから、仕事のための出費もそこそこ多い。時給1500円は欲しいっすよね。エキタスに参加するとよい。

ただし、他業種では売り上げに比しての給与の率はもっと低かったりもしますから、美容業界の剰余価値率が高いとは必ずしも言えません(厳密に剰余価値率を計算する場合は経費分を除くのでしょうが)。飲食は原価がかかりますから、単純に比較はできないですけど、居酒屋では客の支払う金額の1割しか人件費に反映されていないこともありそうです。

この美容師が書いているように、日本の美容院では客単価が安すぎるという問題があって、これが改善されないと根本的な解決にはなりそうにないですけど、過当競争になっているので、むしろ客単価は落ちています。常時割引チケットを配布していますし。厳しいですね。

※「Group of two women and a child

 

 

美容業界の男女差

 

vivanon_sentence雇われ美容師の給料は安い。オーナーにならないと儲からない。経営者だって楽ではなさそうですが、儲かる可能性はある。

刈り上げはもっとも高度な技術—美容院でカットモデルを初体験 上」で美容師が言っていたように、美容学校の生徒を見ても、国家試験合格者の数を見ても女の方が多い。しかし、自分の店を持つのは男の方が多い。あそこにも書いたように、ヘルスでバイトしている美容師にも同じ話を以前聞いています。男の方が独立するのが多いことから、美容業界では男女の収入差が相当に生じているはずです。

このことをもって「女性差別だ」なんて言えますかね。言えるのだとしても、美容業界や男性経営の美容院を叩くことに意味がありますかね。そうすることで解決しますかね。

 

 

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