阿部定の体を触った按摩師が体験した露出プレイ-[ビバノン循環湯 304] (松沢呉一)-2,360文字-
※「スナイパー」の連載に書いたもの。十年くらい前かと思います。阿部定関係の図版を探すのが面倒なので、またもメトロポリタン美術館の収蔵品でごまかしました。
阿部定の体を触った服部さん
阿部定事件が世間を騒然とさせている頃に出た「話」昭和十一年八月号では、阿部定事件に関係した記事が複数出ています。
「『お定』按摩氏が女客を語る」は逃走中のお定に呼ばれて体をマッサージした服部幸三という按摩師のインタビュー。この人は目が見える按摩師であり、阿部定のイメージを裏切らない内容が語られています。
阿部定が石田吉蔵を殺害したのはこの年の五月十八日。荒川区尾久の待合でのこと。吉蔵の遺体が発見され、翌十九日に新聞の朝刊に報じられています。
その夜、服部さんが品川の旅館に呼ばれて行ってみると、部屋にはビールやお銚子、食い散らかした皿が散っていて、荒んだ美人が寝ています。
「按摩さん、今朝の新聞は読んだか」と自分から切り出して、「読んだ」と答えると、「どんな話か教えて欲しい」というので、事件の概要を説明。服部さんはまさか、それが当人だとは思ってもいなかったのです。
さらに似ても似つかない女中を指して、「ねえ、按摩さん、この人、ちょっと阿部定に似てるでしょう」とまで言います。遠からず捕まることを覚悟していたのでしょうが、それにしても大胆。
服部さんが体を揉み出したところ、【あらうことか、女が口にできないほどの媚態で私を誘惑しようとしたのは、新聞記事などで、皆さま御承知だらうと存じます】。「そんな記事読んでねえから、ちゃんと説明しろよ」って突っ込みたくなりますが、足を拡げたりしたのでしょうね。
目が眩みながらも彼は堪えて仕事を終了。
「ビールを飲んで行かないか」と誘われるのを固辞して退却した服部さんです。
大量の女の体を触っているこの人によると、荒淫な生活をしている人は足の甲や裏が板のような堅くなるのだそうで、阿部定の足も板のようだったと言ってます。皆さんも自分の足を思わず触っているのではないかと思いますが、私の足は赤子の如く柔らかな手触りです。
これは服部さんが言っている話ではないのですが、この時代には、よく犯罪者が遊廓で捕まってますし、今もソープに行ったりするものですが、犯罪をやって興奮して性欲が高まっているだけじゃなく、しばらくシャバに出られないと思うと、一発しておきたくなるものらしいですよ。阿部定もそうだったのでしょう、きっと。
※「話」の表紙はここで取り上げている号とは別です。参考までに。
素人さんの方が欲求不満
後日、服部さんはそれが阿部定だと知ってビックリ。警察に呼ばれて取り調べを受け、その時にちょうど阿部定とすれ違い、「おや、どなたでしたっけ」としゃあしゃあと言ってのけます。阿部定というのはたいした女だったようです。
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