松沢呉一のビバノン・ライフ

月に百万以上稼いでも足りない貢ぎ女—いい子は堕ちる 上-[ビバノン循環湯 307] (松沢呉一) -4,262文字-

24時間労働の風俗嬢—貢いだ果てに 上」「救いようがない—貢いだ果てに 下」に出てきた社長は、プライバシーに踏み込まない方針。これに対して、プライバシーに踏み込むタイプの人もいます。今回出てくる店長(この人も社長なのですが、気さくな人だし、つねに店にいたので、私にとっては店長の方がしっくり来ます)はどちらかと言えばそのタイプ。かといって私生活に口出しをするわけではないのですが、すべて把握しておきたい。この店では、女のコと客がつきあうのは禁止ではありませんでした。もちろん、推奨はしないですが、「禁止してもどうせつきあうのはつきあう。だったら知っておいた方がいい」という考えです。おかしなのとくっつかないように、つきあう時は男を店に呼ぶ。「何があっても女の金に頼るな」「仕事に口出しをするな」と釘を刺します。いざつきあい出すと、「仕事を辞めて欲しい」と言い出すのがいるのです。こういうルールにしておいた方が女のコらも相手を選ぶようになって、実際には客とつきあうのはあまりいなかったはず。こういう方針にしたきっかけはたぶんここに出てくるRちゃんだろうと思います。記憶が定かではないですが、Rちゃんが貢いでいた男は客ではなかったはず。それでも店長にとっては痛恨だったのであります。

ソープランドの人たちはソープで働くことを男女問わず「落ちてきた」と表現することがあります。社会の最底辺であることを自嘲する言葉です。今回の「堕ちる」という言葉はその意味ではなくて、人としてダメになっていくことを指しています。「24時間労働の風俗嬢—貢いだ果てに 上」「救いようがない—貢いだ果てに 下」に出てきたのとはタイプが違うのですが、こっちもまた厄介であり、結局のところ、依存状態になっているのは同じ。どっちも「いい子」。つまり自分がない。意思がない。自立していない。自信がない。素直にも見えますが、中身がないだけ。私は「悪い子」が好きです。

この原稿は十年以上前に四国の風俗誌に出したはず。

 

 

いなくなってから裏の顔を知る

 

vivanon_sentence雑誌にもよく出ていた人気ヘルス嬢のRちゃんが突然店を辞めた。親バレして、実家から母親が連れ戻しに来たのだ。

彼女には取材に協力してもらったことがあって、店でも時々顔を見かけていたのだが、ホントにいいコだった。スタイルもいいし、顔もいい。その上、性格もいい。言うことなし。この店のナンバーツーであり、人気があるのは当然だ。

この時代の代表的フードルの一人と言ってもいいかもしれず、雑誌を見ると、派手な印象もある彼女だが、普段着はいつもジーンズで、質素とも言える格好をしていた。風俗嬢の多くはそんなもんだ。

しかし、もう辞めたからということで、店長はRちゃんの日常を教えてくれた。この店長は「このコは実は子どもがいて」なんてことまでよく教えてくれるのだが、Rちゃんについてはあまりにギャップがありすぎて、私にも教えられなかったようだ。

私にはまったく裏の顔が見えていなかったので、この話にはショックを受けた。

Rちゃんは高校を出て上京し、水商売に入ったが、間もなくこの店にやってきた。当時まだ十八歳である。

仕事を始めた頃はそんなことはなかったのだが、やがてどんどん金にうるさくなった。「稼げない」と店長にグチるのだ。普段のあの質素とも言える格好から、私はずいぶん金を貯め込んでいるのだろうと想像していたのだが、店長によると、妻子ある男に金を貢いで、いつも金をもっておらず、質素に見えたのはそのためだったらしい。

「あのコがちゃんと出勤すれば、六万とか七万とか確実に持って帰れるんですよ。でも、その男と会うために出勤はいい加減で遅刻や欠勤の常習犯でした。無断欠勤しておいて“稼げない”って文句をたらたら言うんですから、まいっちゃいますよ」

金にうるさいことも、男に貢いでいたことも、出勤がいい加減だったことも私は全然見抜けてなかった。

「彼女は外面がいいですからね。取材の人たちには愛想がいいんですよ。松沢さんにもいいところしか見せてなかったと思いますよ」

その通りだとつくづく思う。よくある話だが、従業員に見せる顔と客や取材者に見せる顔がまるで違うタイプがいて、彼女はその典型であった。だいたいこのタイプは、相手を見る。そうした方が得だと見ると媚びる。強く出た方が得だと見ると本性を出す。

 

 

月に百万稼いでもなお足りない

 

vivanon_sentenceそれにしても、私の知るRちゃんとはイメージが違いすぎる。貢ぎ女は、だいたいは依存傾向が強くて、どことなく臭う。貢がせ男は、そういう臭いこそを嗅ぎ分けて近寄るのだろうが、Rちゃんはそういう臭いをまったく発散させていなかった。

しかし、依存的な性質がそう強くはなくても、そうなってしまうのがいる。そんな男を好きになるのはバカで一途だからだったりして、自分が利用されていることにも気づけない。

出勤がいい加減であっても、彼女は月に百万円以上稼げていた。接客はイマイチだったようだが、ルックスが抜群にいいので、雑誌指名だけでも相当の本数だったろう。一体ナンボ男に渡していたのだろうか。返済のあてもないのに、女に金をもらう男も、男に金を渡す女もよくわからないが、これも本人たちの勝手ではある。

そういえば、私がそのヘルスで遊ぼうとした時も、店長はRちゃんを私には勧めず、「あのコは気分屋で、性格がきつい」みたいなことを言っていて、私は一度も遊んだことがない。

店長は彼女に相当いじめられたみたい。

「この仕事をやることで、性格まで変わってしまうコと、何ひとつ変わらないコといますよね。あのコは見事に変わりました。最初はホントに素直ないいコだったんですよ。ただ、プロ意識は最初からなくて、客の好き嫌いが激しい。それでも雑誌に出て人を呼んでくれるので、うちとしては手放したくない人材だったんですけど、だんだんスレてきて、もういいって気分に僕もなってきてましたから、彼女がいなくなっても、そんなにはショックじゃないですよ」

そう言いながらも寂しそうな店長だ。

「要するに子どもなんですよ。社会に出て常識を身につける前に、大金を稼げることに慣れてしまって、金銭感覚が狂ってしまったんですよ」

これもよく聞く。OL生活を何年かやったあとで風俗嬢になったのと、高校を出てすぐに風俗嬢になったのでは、その後の身の振り方に違いが出る傾向がある。もちろん個人差も大きいわけだが、高校出てすぐに風俗嬢になり、しかもルックスのよさで人気と金を得たコは扱いが難しくなることがあって、Rちゃんはこのタイプだったようだ。素直だからこそそうなった。

※歌舞伎町のゴミ

 

 

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