松沢呉一のビバノン・ライフ

強度の依存的性格は医療の領域—依存する女たち・男たち 1- (松沢呉一) -2,856文字-

24時間労働の風俗嬢—貢いだ果てに 上」「救いようがない—貢いだ果てに 下」に出てきたヘルス嬢は、私自身は会っていないのに強い印象が残ってます。あそこまでのケースはなかなかないですから。私が会ったケースで、あの半分くらいひどい目に遭ったのが一人だけいます。これも本人が望んでそうなったとしか思えないんですけどね。

軽度なものは他にもいっぱいあって、原稿にもしているのですが、そのまんま出すのはためらわれます。「だから、風俗嬢は」「風俗業界は」と言われてしまいかねないので。こういうタイプは風俗嬢じゃなくても厄介なんです。その辺のことを先に説明をしておいてから、それらの原稿を循環しておこうと思います。

図版はエゴン・シーレ でまとめてみました。

 

 

社長の対応は何も間違っていない

 

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先日の貢ぎ女の話(24時間労働の風俗嬢—貢いだ果てに 上」「救いようがない—貢いだ果てに 下)を悪意のある人が記述すると、いかにも店が悪質であるかのような印象に仕立てることは可能でしょう。兼松左知子だったら確実にそうします。高里鈴代だったら、彼女を「知恵遅れ」として、そこにつけ込んで店が儲けていたという話に仕立てましょう

しかし、社長が言っていたように、また、私も繰り返していたように、あの場合は店としては手の施しようがない。本人がそこから抜ける気にならない限り、対処の方法がないのです。

もし無理矢理別れさせたりしたら、悪意ある人たちは「恋人と別れさせて、さらに働かせようとした悪質な性風俗店」などと難癖をつけてきます。事の本質を見極めて解決を求めるのではなく、ただもう道徳から外れる人々を貶めたいだけのヤツらは油断も隙もない。

兼松左知子が『閉じられた履歴書』で取り上げている例には、こういった救いようのないケース、自身が選択したとしか言いようのないケースが多数含まれていると想像できることはすでに指摘した通り

「婦人相談員は彼女らを救済しているのだから、放置したり、手に負えないとなると放逐する性風俗店よりマシではないか」という意見もあるでしょうが、よーく考えてみましょう。

婦人相談所に来る「婦人」たちは警察等から回されてくるケースもあるわけですけど、原則、相談者は現状を改善したい人たちが来るのです。

いくら周りが意見しても耳を貸さなかったのが、男が逮捕されたり、自分の命の危機を感じて助けを求めてくる。助けてもらうためには「いかに店が悪質か」を強調して、相談員の同情を引くことも言うでしょう。

問題を解決したいのか、そうではないのかによって、当然できることは違っていて、解決を望む状態にあるから道が開かれる。それを助けるのが婦人相談所の本来の役割です。願わくば道徳ではない見方で事実を正確に見据え、的確な解決ができればいいのですが、無理でしょう。

経済活動をすることを目的とした会社では、社員のプライバシーに勝手に踏み込めない。しかし、社員が求めれば弁護士を紹介したり、カウンセラーを紹介したりすることはあります。「弁護士やカウンセラーが救えているのに、放置したり、手に負えないとなると弁護士やカウンセラーに押しつける会社はひどい」と非難すべきかどうか。

社員がアルコール依存症になった場合でも同じ。病院を紹介するくらいはしましょうけど、それによって無断欠勤が続けば解雇です。それ以上のことは知らんでしょ。

From the portfolio “Das Graphische Werk von Egon Schiele” 1922「Sorrow」

 

 

関わらないのが賢明

 

vivanon_sentence本人がそこから脱したいと言うのであれば会社でも店でも協力できます。友人たちも同様。あの社長も男と話をつけようとしたわけですし、私もそういう場合は今まで何度も相談に乗ってます。

 

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