松沢呉一のビバノン・ライフ

暴力夫からの脱出-性風俗は結婚からの避難所である 上-[ビバノン循環湯 298] (松沢呉一) -3,021文字-

2000年に、四国の風俗雑誌でやっていた連載に書いたもの。さまざまな人たちを軽く並べただけの内容ですが、性風俗の役割についてのわりと大事な指摘かもしれない。

兼松左知子のような人にかかれば、これらも全部性風俗産業否定に利用されかねない。結婚前にシャブ中の男に貢いでいたような例まで性風俗のせいかのように記述するんですから。

現実には水商売と性風俗は、結婚の呪縛から脱出するためのヘブンとして機能している側面があります。天国のheavenではなく、避難所のhaven。場合によってはheavenにも転ずるわけですが。また、場合によっては、結婚をしない選択を可能にする手段にもなります。

であるならば安全に働ける場所にするのが望ましいのは明らかでしょう。

それが兼松左知子のような人々には気に食わないのだと思います。女は男と結婚して尽くすのが幸せという考えを守りたい。避難所がよりよく機能するのは都合が悪い。この制度を綻びさせるような存在は許せない。売防法を維持し、規制を強化して潰したい。家父長制の保守点検係を望んでやっている糞フェミの皆さんも同じです。

その結果、このあとの浄化作戦によって働く場所を失い、人によっては警察で取り調べを受け、幇助で前科がついたのもいたはずです。性風俗否定論者たちがこれをバックアップしたことを私は一生忘れまい

 

 

性風俗は離婚を決断させる

 

vivanon_sentence高円寺にあるイメクラの社長から電話をもらった。そんなにつきあいが深いわけではないのだが、この人はお気楽に電話をしてくる。

「明日から、いいコが入るので、遊びに来てよ」

新人が入ると客をつけて、稼げることをわからせる必要があり、その動員である。店との関係とをつないでおくため、できるだけ私は出掛けていくことにしている。料金は自腹だ。

翌日、私は店に出向いたのだが、社長は渋い顔をしている。

「いやー、それがね、講習したんだけど、まだ勇気がないみたいで、今日は講習だけで帰しちゃったんだよ。確実に稼げるタイプなんだけど、もしかすると、もう来ないかな」

私としてもわざわざ店に出向いたからには、ネタのひとつやふたつ拾って帰らないと無駄足になるので、社長としばらくダベった。

この彼女は既婚の23歳。夫とうまくいっておらず、離婚を決意しており、一人で暮らすための準備金が欲しいのだという。しかし、風俗仕事はこれまでしたことがないため、踏ん切りがつかなかったらしい。

離婚が成立する前に性風俗で働いていたとなると、そこを突っ込まれかないので、しばらくは静かにしているのが賢明かと思う。いざ離婚したら、夜の仕事もできるのだから、水商売をやるもよし、イメクラで働くもよしである。

子どもはおらず、勇気さえ出せばいつでも働けることがわかったことで、彼女は離婚しやすくなったのではなかろうか。

社長はこう言う。

「早く結婚するとダメだよな。結婚は、男を見る目をつけてからじゃなきゃ」

こういう例を多数見てきているだけに説得力のある意見である。

Peter Paul Rubens「Venus and Adonis」

 

 

暴力夫の多いこと、多いこと

 

vivanon_sentence私は夫のどこが問題だったのかまでは聞かなかったし、社長もそこまでは踏み込んでないかもしれないが、ホントにひどい男が多いことをバツイチ風俗嬢たちからよく聞く。熟女、人妻系の店で話を聞けば簡単にそういう話を聞けるし、ギャル系の店であっても、バツイチは少なくない。

 

 

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