妹の修学旅行土産は風呂の残り湯—妹への異常な愛情 中-[ビバノン循環湯 310] (松沢呉一)-3,667文字-
「女子高の制服が好きな兄—妹への異常な愛情 上」の続きです。
風呂の残り湯が修学旅行土産
佐野君の妹がまた変わっている。彼女も佐野君の趣味に気づいていて、高校の修学旅行の土産に、皆が入った風呂の残り湯を持ってきたという。
「“おにいちゃんにお土産だよ”って言って、お風呂のお湯が入ったプラスチックのフィルムケースをくれたんですよ」
何クラスあるのか知らないが、そのケースの中にはおそらく百人を超える女子高生のエキスが詰まっているのである。
佐野君は制服フェチであって、ブルセラショップで体液を買うようなことはしないはず。ブルセラショップに行くとしたら制服を買う。実際、買ったこともあったはずだ。
したがって、これ自体に興奮するわけではないのだが、女子高生のエキスだけでなく、妹の愛情が詰まっているので大事に保管しているそうである。
このアイデアはなかなかのもので、「妹はやるな」と私は感心もし、「うちのお兄ちゃん、ヘンタイなんだよ」とクラスメイトに話している様子を想像し、さばけた高校生たちだとも思ったのだが、ここまでやるかなあ。
最初は「変わった兄妹だ」と皆思っていたのだが、いくらなんでも溺愛振りが尋常じゃなく、また、佐野君の話による妹の行動も信じがたいところがある。
編集部には他にも妹がいる編集者がいて、彼も「そこまで妹が好きなことも、妹が兄の性癖を知っていて、協力することもおかしい」と言う。
やがては「妹なんて実在しないんじゃないか。すべて妄想なんじゃないか」との話が出てきた。「家に帰ると、セーラー服を着せた人形が置いてあり、それを相手に話しかけている」との説まで出て来る始末で(私が言い出したのだが)、佐野君を見ていると、そういうこともあるかもしれないと思えてくる。
※「Doll」
おまえの妹は人形か?
そこで佐野君に「おまえの妹は人形だろ」と質問してみた(ワケのわからん質問ではある)。
佐野君は「何言ってんだ」と頑なに否定し、あまりに皆がおちょくるものだから(皆と言っても、その中心は私)、佐野君は半分怒り出し、「だったら写真を持ってくるよ」と言う。
しかし、佐野君はなかなか写真を持って来やしない。 「実家に帰ってないから、写真をもって来られないんですよ」と佐野君。彼の実家は近いとは言え。都内ではなく、月に一回くらいしか実家には帰っていないのは事実である。
しかし、佐野君の様子から、あの時は、本当に写真を持ってこようとしたのだと思う。うちに帰った佐野君は「皆がおまえの存在を妄想だ、人形だ、とバカにするんだ。こんなかわいいおまえの姿を見たら、みんな、びっくりするぞ」と言いながら妹を撮影した。
ところが、数日後に焼き上がった写真をよく見たら(※この頃はまだフィルムが主流)、やっぱり人形だった。ここで初めて、皆の言う通り、妹が実在しないことに気づき、写真を持ってこられないのではないかともっぱらの評判である。
気づいたのならまだいいが、それでもまだ気づかずに人形の写真を持ってきた場合、どんな対応をすればいいのか、我々は協議した。もちろん、冗談なのだが、佐野君に限っては、本当にそういうことがあり得るような気がすると誰もが感じていた。
※Lewis Carroll「The Prettiest Doll in the World」 今だったら確実に逮捕されただろう少女マニア、ルイス・キャロル撮影の少女写真。解説によると、「不思議の国のアリス」のモデルとは違う少女のよう。
在校生リストに名前がない!
ある時、佐野君の妹が行っているお嬢様女子大に知り合いが通っていることを思い出した。彼女自身も裕福な家庭に育ったお嬢様だ。お嬢様だが、やることはしっかりやっているタイプのお嬢様であり、だから私とも知り合い。佐野君は「お嬢様学校の生徒は下半身までお嬢様」と思い込んでいそうだが、そんなことはない。
彼女は妹と同じ三年生である。そこで私は佐野君の妹が実在するかどうか調べてもらうことをひらめいた。
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