英国ECP(English Collective of Prostitutes)発行の冊子より—STDを悪用する人たち 下-[ビバノン循環湯 325](松沢呉一) -2,904文字-
「梅毒と道徳主義者に要注意—STDを悪用する道徳主義者たち 上」の続きです。
病気という不幸を道徳強化のために理由する人々の醜悪さについては、「遊廓に脳梅はいたのか-「吉原炎上」間違い探し 19」「山室軍平も遊廓とグルか?-『親なるもの 断崖』はポルノである 4」「女たちの意思が邪魔だった-歴史を改竄した『みんなは知らない国家売春命令』 4」「エイズを利用するサイテーの人々-ソウル・クィア・パレード 8」も参照のこと。
とくに「「おっぱい」募金中止を求める署名の愚劣-HIV対策の妨害者」を読んでおいてください。十年以上前に書いた内容が、そのまま糞道徳主義者によって再現されたことがよくわかるはずです。
イギリス売春女性からの提言
STDが道徳維持のために利用されてきた歴史と現在を知るために、エイズ予防法に反対する大阪連絡会編『AIDS セクシュアリティと差別 イギリス売春女性からの提言』という冊子を取り寄せて読んでみました。
この冊子はイギリスのECP(English Collective of Prostitutes)が作成したパンフレットの翻訳に、日本側の文章を加えたものです。薄っぺらな冊子ながら、重要な指摘を数多く含みます。
病気は平等に人を襲いますが、貧富の差、教育の差などによって、往々にしてより弱者を狙う形で発現します。そして、患者である彼らに、またその属するグループに、今度は国家や社会が攻撃を加えます。
私も以前このブログで指摘したように、病気の原因を弱者に押し付けた上に、その存在自体を否定するわけです。こうして、普段は隠している差別意識が、病気の恐怖や不安を背景に一挙に顕在化します。
※図版は山田弘倫, 旭憲吉著『花柳病診断及治療法』(朝陽堂・明治35年)より。これは梅毒のイラストです。以下同
差別者たちが病気の対策を妨害する
HIVウィルスは人々の肉体を蝕んだだけでなく、人々の心から差別意識を引き出すリリーサーとして猛威を奮いました。ゲイや売春者の感染のみが声高に叫ばれて、それらを攻撃対象としていきました。
そのことをこのパンフはよく指し示しています。
売春女性に対する攻撃は常に女性全体に対する性的、経済的攻撃の動きの第一歩である。
売春否定は、端的に女たちの意思の否定であり、女たちが経済的に自立することへの妨害であります。
もし政府が、エイズの恐怖にさらされる売春女性のことを真剣に考えているのなら、女性が命の危険を犯してまで売春しなくてすむように、財源をさくはずだ。
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