長野とフランスに注意—美術モデル体験記 [2]-[ビバノン循環湯 334] (松沢呉一) -3,701文字-
「美術モデルってどんな仕事?—美術モデル体験記 [1]」の続きです。
地方出張もあり
美術モデルは裸の仕事だが、エロとは無関係。あくまで芸術である。
とも言い切れないみたい。女性のヌードモデルが来ると、やたらと生徒が集まって、関係のないクラスの生徒までが見物にやってきたりもする。
「多摩美だったと思いますが、受験の時に、裸を見て、“ワーッ”と叫んで出ていってしまった男の子がいましたよ(笑)。パニクったみたいですね」(Hさん)
初めて生の全裸を見たのだろう。美大の受験の前には、ストリップや風俗に行って、裸に慣れておく必要がありそうだ。
ギャラがさほど上がっていない割に、この仕事は、見た目よりもずっと体力も神経も使い、美術モデルには、腰痛、肩凝り、膀胱炎が多いとも聞く。
「頑張り過ぎるのはよくないみたいです。私も、二週間連続で朝と昼の仕事をやって、倒れたことがあります。あまり自覚はなくても、ストレスが溜まるのか、脱毛症になったのもいます。あと、辛いのは、風邪をひいて鼻水が垂れてくることですね。中断して鼻をかんでもいいんですけど、またすぐに垂れてくる(笑)」(Hさん)
「冬は暖房があるからいいんですが、夏は冷房の効き過ぎで、おなかが冷えて下痢になることがある。漏らしたことはありませんけど(笑)」(Sさん)
鼻水や下痢が垂れてきたら、みんな、それを描き込むんだろうか。人によっていろいろのようだが、だいたいの人は生理でもタンポンを使ってモデルをやるそうで、十年に一回くらいは足を血が伝うことがあるかもしれない。
と大変な話ばかりだが、時には楽しい仕事もある。地方にはモデル事務所がないため、泊まり込みで遠くに行けるのだ。
「沖縄に、半月とか一カ月、派遣される人もいる」(Hさん)
美術モデルが来るというので、その期間に仕事が集中するわけだ。抜群にいいですね。一日三時間仕事して、あとは泳いでいればいいんだから。
「沖縄に派遣されると、居心地がよくて、戻ってこないんですよ(笑)。私が知っているだけで三人、戻って来なかった」(Sさん)
画家とモデルのいい関係
日本でもっと有名な美術モデルというと、お葉こと佐々木カネヨだろう。藤島武二、伊藤晴雨、竹久夢二と、日本の洋画家、最近再評価されている責め絵の大家、大衆の圧倒的支持を受けた通俗画家らに愛されたモデルである。
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