あるオーストラリアのセッスクワーカーを捉えたドキュメンタリー—スカーレットロード [1]- (松沢呉一) -2,787文字-
映画「スカーレットロード」について
SWASHが国内の上映権を取得したオーストラリアのドキュメンタリー映画「スカーレットロード」の試写を観ました。イベント的な上映が多いかと思いますが、この秋から上映が始まる予定です。
私の第一印象は「地味」でした。
オーストラリアではセックスワーカーのアクティビストたちの団体Scarlet Allianceが活発な活動を続けています。他にも団体はあるようですが、ここがオーストラリアを代表する存在です。もちろん、映画のタイトルはこれにひっかけたものです。
NSWPのサイトから
ヨーロッパの団体もそうですけど、Scarlet Allianceは派手に路上での行動をやっている印象があって、そのイメージとの比較として映画は「地味」。あるセックスワーカーの日々の生活がメインです。
映画にも、マルディグラのプライドパレードに参加するシーンなど華やかな映像も少しは出てきますし、ウルっと来るシーンもふんだんにあるのですが、セックスワーカーであり、Scarlet Allianceの活動家であるRachel Wottonと、それに関わる人たちを追ったものという意味で地味です。
大局的な視点から、オーストラリア各州のセックスワークの状況を見たり、広く一般にセックスワーカーと障害者の関係をとらえたドキュメンタリーではないのです。それを読み取ることは可能ですが、視点はあくまで一人の女性です。
しかし、地味であるが故に今まで見えてこなかったものが見えてきて、この個人や、とりまく人々のそれぞれにおいて考えるところはいっぱいあります。今の日本と通じるところもあるし、かけ離れたところもあって、通じるところでまず考えていく。そのことでしか変えていく方法はないのではないかとも思います。
日本にも通じる部分はどこか。違うところはどこか。その違いがどこから生じているのか。その違いを超えられるのか。それを考えていくことで、自分に欠けていること、この国に欠けていることが見えてくるはずです。
これについてはパンフレットに長いコメントを書きましたので、そちらを見ていただくとして、もう少し具体的なことをここに書いておくことにしました。
闘うスカーレット・アライアンス
たぶんパンフには、オーストラリアのセックスワーク事情についての解説が出るのだと思いますが、ヨーロッパに比べると、オーストラリアの状況は日本で話題になることが少ないため、映画だけだとわかりにくいかもしれない。ここで簡単に説明しておきます。
Scarlet Allianceの活動の成果は着実に上がっていて、1990年代から法改正が進んでいます。オーストラリアでは、一部を除いて、セックスワークはすでに合法化されているのですが、映画の中でも州をまたいだ時の不都合の例をレイチェルさんが語っているように、8つの州によって法律が全部違っていて、Scarlet Allianceは非犯罪化を目指して、各州の法をさらに改善しようとしています。
売春宿という業態は、届出をすればできる州があったり、できない州があったり。個人売春についても、登録が必要だったり、不要だったり。路上での勧誘は違法だったり、個人でも3人以上が共同で活動することは許されなかったりと、各州で規定が違います。その法の運用についても厳格だったり、緩かったり。
※図版はScarlet Alliance発行の報告書「PRINCIPLES FOR MODEL SEX WORK LEGISLATION」の表紙。ネットで公開されています。
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