松沢呉一のビバノン・ライフ

独身主義は人類としての罪悪—女言葉の一世紀 71-(松沢呉一) -3,758文字-

エリート官吏は学習院女学部卒も女学館卒も嫁候補にはせず—女言葉の一世紀 70」の続きです。

 

 

 

結婚相談所で自己主張するお茶の水女学校出身者

 

vivanon_sentenceキヨちゃんの言葉から、結婚への焦りを感じ取ることもできましたが、あのインタビューの段階で23歳か24歳だと思われますから、この時代には焦るのも当然の歳ってことなのかもしれません。

以下は「高砂社結婚媒酌所」という結婚相談所のインタビュー。

 

 

(※娘さんは見合をすると)「先き様でさへお承知ならば私には異存は御座いません」と恥ずかしげに云ふのが多い。それ位だから、一旦見合をして婿さんの方から跳ね附けられたとなると非常に恥の様に考える。「ねもう一生独身で暮すより外はないわ」等と嘆き悲しむ娘さんが多い。さうかと思ふと又娘さんの方から選り好みをして十幾遍の見合に悉く婿さんの候補を落第させて平然として居るはいから娘もある。一人娘に婿八人処か十六人と云ふのがある。これは上流社会の某家のお嬢さんで、十三人目の見合で漸く及第させたと云ふ娘さんがあった。

娘さんとお母さんとは如何しても婿さんに対する理想が違ふ。娘さんは姑が無い男振の好い人の処へ行きたがる。お母さんは例え姑があっても、又男振りなどは少し悪くても、資産のある処へ嫁がせたいと云ふ。此結果は娘さんが飽くまでもお母さんの云ふ事を肯(き)かないで、お母さんと喧嘩をしてまでも我が言い分を通すと云ふやうなのも随分ある。

此間私共で媒酌したのに斯んなのがあった。一人の婿さんの候補者を推薦した処が、写真を見ると直ぐに此娘さんが急に惚れ込んで了って、是非此方の処へ嫁ぎたいと云ふ。然し、其婿さんは近く台湾へ赴任する事になって居たので、お母さんが反対して、「一人娘のお前さんをそんな遠くへ行く人の処へは嫁れません」と云ふ。すると、娘さんが腹を立てて、「此縁談はお母さんの縁談ではありません。私の縁談です。当人の私さへ承知したらそれでいいじゃあ、ありませんか」と云ふやうな意気込で自分で直接婿さんに談判を持ち込み、遂果両親を説破して不承不承に此縁談をほ纏めさせて了ったと云ふのがあった。此娘さんの年は二十で、お茶の水女学校の出身である。当節は斯う云ふ娘さんが一寸一寸(ちょいちょい)あるから恐ろしい。

 

 

女学校出身は生意気という話ですが、ちゃんとこういうところでは自己主張できるのが出てきたのであります。でも、写真一枚で惚れるのは早過ぎでは? 尻に火がついて、見た目がよければなんでもいい、見た目がよければ「霊肉一致」って感じだったのかも。

 

 

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