松沢呉一のビバノン・ライフ

活動写真館の案内ガール—女言葉の一世紀 88-(松沢呉一) -3,432文字-

エヤ・ガールは危険で薄給だった—女言葉の一世紀 87」の続きです。

 

 

 

活動写真有害論と案内ガール

 

vivanon_sentence婦人職業案内の類の本にはあまり取り上げられていない婦人専門の職業をもうひとつ挙げておきます。

戦前、活動写真がいかに青少年に害悪かについてまとめたことがあるのですが、不良の溜まり場となり、若い娘さんがその毒牙にかかったり、恐喝されたり、不良の仲間になったりすることはもちろん、やれ目が悪くなる、刺激の強いものを見て自瀆するなど、あらゆる点から青少年に対する活動写真の害が指摘されておりました。今のゲームやエロ漫画と同様か、それ以上の悪者とされて、悪いことはすべて映画のせいにされていました。

戦前から戦後にかけて少年犯罪は今の比ではなく多くて、その数字を見ると、ゲームやエロ漫画より、ずっと映画の方が少年犯罪を誘発していたってことになりましょう。年少者の自殺もそうです。

いつの時代も、わかりやすい原因を仮想して、それを叩くことで安心する人たちがいるものです。むしろ、そういうヤツらが世の中を悪くしています。

映画を観るために映画館に来る青少年への害だけでなく、働く側も堕落するとよく指摘されています。これは案内係のことです。

案内係は「劇場の女給」と呼ぶことがあります。「売春することは堕落すること」という前提で言えば、実際にあったことですから、「映画というメディアによる悪影響」のような、本当かどうかわからないこととはちょっと違います。

当時、映画館では案内嬢を用意していて、指定された席まで手を引いて連れて行ってくれるサービスがあって、それを目当てに男たちが集まってきたのです。今も芝居小屋やホールで座席までスタッフが案内してくれることはありますが、当時はもっとエロがかってます。

「〜ガール」という言い方が流行る前からあったためか、そんなシャレたものではなかったためか、「案内ガール」としてあるものは少ないのですが、ここでは「案内ガール」としておきます。

※この写真は戦後のもの。「モージャー氏撮影写真資料」より

 

 

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