松沢呉一のビバノン・ライフ

貧民層の娘たち—女言葉の一世紀 99-(松沢呉一) -3,039文字-

文部省が嫁候補として女子の求人をした時代—女言葉の一世紀 98」の続きです。

 

 

 

血統を役人が口にする時代

 

vivanon_sentence女子の仕事についての話が続きましたが、扇谷亮著『娘問題』に戻ります。間が空き過ぎて流れがわかりにくいかと思いますが、辛抱してください。

学習院女学部と虎の門女学館はハイカラ女学生の拠点—女言葉の一世紀 50」に出てきたエリート官吏のインタビューの中で、血統ってところが、一番いやらしい。

今も結婚の際には、興信所に頼んで身元調査、素行調査をするような男や女、あるいはその家族がいるのでしょうけど、こんなことを公言する人はおらず、公言したら信用も職も失いかねない。

他につきあっている男や女がいるかもしれないし、子どもがいて、ずっと養育費を払い続けるのはイヤなので、素行調査をしたいというのはまあわかる。親や兄弟姉妹に莫大な借金を抱えているのがいると、自分にも累が及ぶかもしれないので、知っておきたいというのもまあわかるけれど、血統ってどうでもいいでしょ。

しかし、明治ともなれば、「言ふ迄もなく血統を調査しなければならない」と役人が堂々と公言。そういう時代です。

学歴も容姿も本人の問題ですけど、血統だとか身分だとか親の財産だとかゲスいですわね。今も、愛情なんてまったくなくて、親の資産欲しさに結婚する人は実在しますけど、さすがに公言はしない。

公言しなくても、本人の口から聞いたこともあって、さすがに複雑な気持ちになりました。それも相手が納得しているんだったら、両者の合意ってことで他人がとやかく言うことではないのだけれど、百年前は、それを隠すこともなく、多くの人が「血統が大事」と信じて疑っていなかったのです。

※ハリー・牛山/メイ牛山著『美容師を志す人のために』より。和装と洋髪を併せているようです。してみると、この頃の方が花嫁衣装は自由だったかも。

 

 

貧民窟の娘たち

 

vivanon_sentenceすでに説明したように、扇谷亮著『娘問題』はおもに女学生の問題を取り上げているのですが、ところどころに、それ以外の娘の話も出てきます。

坂本龍之介・万年小学校校長は貧民窟の娘について語っています。

 

 

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