松沢呉一のビバノン・ライフ

パオロ・マッツァリーノって誰だよ—女言葉の一世紀 97-(松沢呉一) -2,781文字-

東京市による画期的な婦人職業調査 3—女言葉の一世紀 96」の続きです。

 

 

 

女学校も就職先を斡旋する時代に

 

vivanon_sentence東京市編『婦人職業戦線の展望』(昭和六年)からもう一点指摘しておきます。女学校だけの数字は出ていないのですが、3,632名の事務員のうち、1,162名は「学校の紹介」で就職したと答えていて、相当数の女学校がこの中に入ってましょう。

タイピストなどの養成をしていた学校はもちろんのこと、女学校でも就職の斡旋をすることで「入学すればいいところに就職できる」ということを売りにするようになっていただろうことが見てとれますし、雇用する側も、よりよい人材確保のために、学校に斡旋を依頼するようになっていたのでしょう。

しかし、女工で「学校の紹介」と答えているのはほとんどおらず、女工は女学校が推奨できる仕事ではありませんでした。健康を害するわ、給金は安いわ、重労働だわ、長時間労働だわ、嫁入りの箔がつかないわ。

女学校が増えるに従って入学者の層が拡大してきて、「就職せずに花嫁修業さえしていればいい。女が働くのは貧乏の証拠」という、それまでの女学校教育は現実とずれてきてしまう。上流の家庭の子女だけが女学生になる時代が終わって、その下の層を受け入れるには「就職に有利」という女学校の新たな役割が出てきます。

これによって、それまで対立関係にあった、社会進出を目指す「新しい女」と女学校教育は重なりを持ち始めます。それがもたらしたものについてはこれ以降論じていきますが、最近読んだ新書について書いておきます。これも女子の就職に関するものですが、前置が長い。

※東京市編『婦人職業戦線の展望』(昭和六年)よりタイピスト

 

 

パオロ・マッツァリーノとは?

 

vivanon_sentence銭湯に行く電車の中でパオロ・マッツァリーノ著『「昔はよかった」病』を読みました。この新書が出た時に、タイトルはどこかで見かけてますが、この著者のことはまったく知らずにいました。イタリア人ということになってますが、まず間違いなく日本人でしょう。

「これだけ近代の大衆文化について詳しく、日本語に精通しているイタリア人がいるはずがない」とは言うまい(「日本語に精通」というのはしばしば言葉について論及しているという意味です)。しかし、もし実在していればどこの誰かすぐに特定できるはずです。こういうイタリア人が何十人もいるはずがないですから。

ところが、プロフィールはいい加減で、どこで何をしている人なのかさっぱりわからない。

また、日本文化を記述するのであれば、それが日本人の特性であるのか、どこの文化圏でも見られることなのかを明らかにする、もっとも確実かつ手軽な方法は、自身がよくわかっているはずのイタリアと比較対照することであり、イヤでも「イタリアでは」とやってしまうはずですが、そういった記述はほとんどない。ラテン系と日本人の比較が一カ所あっただけかと思います。

イザヤ・ベンダサン方式」だろうと思って検索をしてみたら、これが誰であるのか、具体名を出しているブログがありました。それが正しいのかどうか判断がつかないので、あとは皆さん、ご自分でお調べください。

 

 

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