小学校卒のための就職ガイドの絶望—女言葉の一世紀 92-(松沢呉一) -3,417文字-
「貧しさの象徴だった共働きから新時代の共働きへ—女言葉の一世紀 91」の続きです。
婦人職業拡充の恩恵を受けたのは一部の人々
明治末期から昭和初期までの「女の仕事」を見てきたわけですが、ここで確認しておかなければならないことがあります。
女学校進学率は昭和初期には一割を越えていて、ここまで書いてきた新しい職業の多くはその一部の女子に提供されたものでしかないことに留意していただきたい。
作家も女優もレビュー・ガールもマネキンも創作舞踊家も学歴は関係がないですが、そんなもんになれるのはほんの一部。
「結婚に有利」「花嫁修業のため」なんてことで職を選べたのもこういう層。残りは食うための仕事であり、相変わらず雀の涙ほどの日給で、週一の休みさえとれるかとれないかの環境で働くしかなかったのです。
これ以降は、今まであまり見てこなかったその層について見ていきます。人数で言えばこっちが大多数です。
※東北芸術工科大学東北文化研究センターより「京王閣美容室マリールイズ化粧院」 鮮明な美容院の絵葉書発見。カラーですけど、カラーフィルムのカラーではなく、印刷によるカラーです。そのため、手前のカーテンの色と鏡の中のカーテンの色が違います。すでに説明したように、新しい美容の世界では化粧も施術範囲に含まれてましたので、「化粧院」。髪結いと違い、洋髪にも対応していたわけですが、そのわりに、どれを見ても美容師の仕事着は和服に割烹着です。どうして洋装ではなかったのでしょう。
小卒者のための就職ガイド
多数出ている女子就職ガイドの中で、ちょっと毛色の変わったものを見てみましょう。
その意図はいいとして、相当に厳しい内容です。
本書に出ている職業一覧。
店員
電話交換手
女工
婦人車掌
エレベーター・ガール
女中
派出婦
給仕
映画館、劇場の案内人
モデル
按摩・マッサージ師
裁縫師
食堂・喫茶店女給
事務員
邦文タイピスト
速記者
婦人製図手
製糸教婦
美容術師・髪結ひ
看護婦
助産婦
(残り 2584文字/全文: 3569文字)
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