松沢呉一のビバノン・ライフ

文部省が嫁候補として女子の求人をした時代—女言葉の一世紀 98-(松沢呉一) -2,341文字-

パオロ・マッツァリーノって誰だよ—女言葉の一世紀 97」の続きです。

 

 

 

嫁候補を文部省が募集した時代

 

vivanon_sentenceやっと本題です。

以下はパオロ・マッツァリーノ著『「昔はよかった」病』より。

 

 

一九二九(昭和四)年二月六日付のこれまた読売新聞に踊る挑発的な見出し。「美人に限って文部省が採用」

文部省では数年前から女学校や女子大出の女性職員を試験的に三〇名ほど採用しているが、なかなか仕事もできてお嫁の売れ口もいいし、なにより美人と机を並べて働く男子職員の能率が上がったとの声が多数ある。そこで文部省が打ち出した、この四月からの女子職員の正式な採用条件が、これ。

一、すこぶるつきの美人たること

二、未婚者たること

三、相当の生活を営んでいける家庭の者たること

某課長のコメント。「女子職員は評判がいいので、この四月も数名採用する方針だが、六年も七年もいられると閉口する。出来うるなら二、三年で嫁に行ってもらいたい」

 

 

民間企業だとしても「どうなんか」って内容ですが、文部省がこれを出すか。

職員募集は官報に出ているので、国会図書館でこの募集を探したのですが、見つかりませんでした。探し方が悪いのか、検索にひっかからなかったのか、官報に欠けがあるのか、この採用はレギュラーの募集とは別枠になっていたのか、どれかわからず。

この引用文は容姿を採用条件にしていることの例として挙げられていて、それと二番目、三番目の条件を合わせると、文部省内の嫁候補として採用ってことです。エグいです。そのエグさを少なからぬ女学校出身者は共有していたので、両者の利害は一致しています。

官吏の嫁候補ですから、女学校卒は最低条件であり、なおかつ美人で家柄がよく、資産があることが条件です。貧乏人の娘はてんで話にならない。これも社会の上澄みで起きていたことです。

※大阪市立図書館より「市岡第七高等女学校校内運動会(バスケットボール)」 女学校の運動会の絵葉書を発見。同シリーズの絵葉書と照らすと、袴の裾を上げているように見えます。「1926頃」と書かれてますが、もう少し古いんじゃなかろうか。大正前期と見た。

 

 

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