松沢呉一のビバノン・ライフ

ドクター中松との出会いから批判に回るまで—ドクター中松という珍発明[1]-[ビバノン循環湯 347] (松沢呉一) -5,369文字-

ドクター中松こと中松義郎について、いまさら叩く必要はないのだが、いまなおドクター中松が世界的発明家であると勘違いしている人たちがいるようであるし、本人は144歳まで生きると言っていることなので、これから先なお呆れた発言を続ける可能性がある。亡くなるまで待っていたら、私が先に死にかねず、亡くなったら亡くなったで、反論できない故人を悪く言うのは気が引ける。つっても、雨宮まみと同様、亡くなったからと言って急に言い出すのではなくて、もともと書いてあったものを再録するだけなので、いつやっても同じか。

この「ドクター中松という珍発明」は月刊「宝島30」1993年11月号に書いたもの。私はどこにいつ原稿を書いたかなんて記録していないのだが、Wikipediaに出ていた(笑)。

本文にもある程度は書いているが、改めてこの原稿ができる経緯を説明しておく。1991年、ドクター中松は都知事選に立候補。これが初の政治家への挑戦である。その時に主張していた「政党から出た候補者を大きく取り上げ、泡沫候補は取り上げないのは不当である」という内容に私は共感して、落選後にインタビューを実施した。媒体は当時カルチャー・コンビニエンス・クラブが出していたフリーペーパー。

ドクター中松はおかしな人だが、発明家としては本物と私は思っていて、そこからラジオ番組に連れていったり、ドクター中松主催のパーティに参加するようになる。しかし、キャラだけでなく、発明自体にもおかしな点が次々と出てきて、「この人の言うことはハッタリだらけ」と気づいていく。

さらにオナニー害悪論を雑誌で主張していたことで、私は「放置するわけにはいかない」と決意。バカバカしいのだが、本当の話。ここから「シティロード」の連載で、ドクター中松批判を開始。これはオナニーについてがメインだったのだが、発明についてのおかしさについても「宝島30」でまとめることになった。

その後、このふたつを合体させた長文をミニコミ「ショートカット」の別冊「ショートカット松沢呉一」で発表した。長いので、今回は第一章をすべてカットして、第二章のみ循環。雑誌掲載時に削った部分を復活させているし、その後わかったことも加筆しているはずだが、趣旨は「宝島30」に書いたものとほとんど同じだ。

本文中に出ているように「宝島30」に書いた時点では「ドクター中松小事典」というミニコミがすでに発刊されていて、拙稿はそのミニコミに大いに負っている。ドクター中松のハッタリは大手メディアがこぞって拡散し、中には本人が言っていないことに尾ひれまでつけているのに対して、その批判はミニコミでなされるのがこの国の実情だ。

私もまたドクター中松の主張をインタビューやラジオで拡散することに協力してしまったため、しつこく批判を続けたのは私の責任と考えたためでもある。ドクター中松に協力したメディアや個人が同様にその責任をとれば、ドクター中松幻想がそれ以上広がることを防ぐことができたろうが、責任をとろうとするメディアや個人はほとんどない。出したら出しっぱなし。

面識のある人は批判しにくいということもあるのだろうが、おそらく三回会っていて、私のことを認知していたはずのドクター中松を批判することに私は躊躇などない。責任を果たすことの方が大事。

出版社や雑誌、書き手や編集者個人が「信用ができないので、もう掲載しない」と決定しただけでは責任を果たしたことにはならない。過去に協力したことの責任が残されている。ヨイショしたのと同じ程度に批判をして、やっとプラマイゼロである。そのはずなのだが、自分の責任を直視できないメディアや個人が多いものだ。そのことは「レイシストカウンター」を見てもわかろう。なんで、出演を断った私が尻拭いをしなければならんのか。協力した人たちがやるのが筋だろうがよ。

中には協力してしまったがために自分を守ろうとして批判の力を減じるようなことをやる人までいる。ドクター中松批判についてもそうだった(追記参照)。責任をとる自信がない人は、関わったり、ヨイショする前に相手のことを検討すべし。「ヨイショは軽卒に、責任は慎重に」は逆だって。

※上の図版はドクター中松のサイトより「スーパーピョンピョン」。もっと性能のいいジャンピングシューズが安く出ている時代に、18,300円。

 

今回、これを循環させようと思ったのは、ホワイトハンズの坂爪真吾について調べ始めたら、「ドクター中松と似ている」という点がさまざま出てきたからである。もちろん、格が違い、今のところ坂爪真吾はドクター中松の足下にも及ばない小物だが、「ハッタリをかます」「賞が大好き」「権威が大好き」「自分が一番、あるいは初であると言いたがる」「見せたくないことは伏せる」「他人が言ったことを都合よく取り入れる」「俺様定義を駆使する」「批判を受け入れない」などなど。

両者とも東大出身であるが、このこととこれらの共通点は関係しているのかどうかは知らない。

ホワイトハンズについては小学館、筑摩書房、光文社、中央法規出版、イーストプレス、NHK出版などを筆頭としたメディアがそのハッタリ拡大に協力し、上野千鶴子先生も弁護士たちも箔づけに積極的に協力しているのに対して、批判する側は非力であることも似ている。

私は「セックスワークサミット」の出演を断ったのだから責任はないのだが、熊篠慶彦が批判し続けていたことを無視した点と、要友紀子に「ほっとけ」と言ったらしき点の二点の責任はあると自覚しているので、その責任は果たす。ドクター中松もそうだったのだけれど、こういう検証はムチャクチャ時間と手間がかかる。ホワイトハンズおよび坂爪真吾をヨイショした人たち、協力した人たちがそれぞれに責任を果たせばあっという間に検証は終わる。誰がどこまで責任を果たすか注目していたい。

なお、Wikipediaのドクター中松の項にはその後の話も加わっているのだが、それをいちいち裏取りするのは大変なので、内容はミニコミ「ショートカット松沢呉一」の時点とほとんど同じままにしてある。最後の追記もこの時点でつけていたもの。今回つけた注は「※」で処理した。

算用数字と漢数字の併用になっているのは気にしないでください。

 

 

 

第二章[ドクター中松という珍発明]

 

ドクター中松こと中松義郎の「発明」は他に類を見ない独創的なものである。この人物の「発明」に見習うべき点は大変多く、とりわけ、ひと儲けしようだの、名声を得ようなどと考えている未来ある青少年たちには、ドクター中松の「発明」テクをとことん研究して、そこからノウハウを盗むことをお勧めする。発明は模倣から始まるのだ。

 

 

ドクター中松との出会い

 

vivanon_sentenceドクター中松の発明は非常は幅が広いため、その全貌を調べ尽くすのは容易ではないが、現在わかっていることを羅列するだけでも、この人物がどういう人がおわかりになろう。

話は遡る。1991年の都知事選にドクター中松は立候補。落選から間もない4月24日、私はドクター中松にインタビューすることとなった。これが初めての対面だったのだが、相当妙な人であった。

しかし、そのことで、私はいよいよこの人に興味を持った。偉大な発明をする人は、マッドじゃなくちゃいかん。この頃はまだそう思っていた。まさか、単なるマッドとは思っていなかったのである。

選挙公報の中で、私はエネレックスという発明品にとりわけ興味を抱いて、このことを本人に聞いた。ドクター中松はエネレックスがあれば、電力会社なんていらなくなると言い、驚いたことに、その次の発明はノストラダムス・エンジン2というもので、それは水さえいらないというのだ。しかも、もう試作品ができているというではないか。

「ネーミングがなんだかなぁ」というところだが、このくらいセンスが悪くないと、発明なんてできないのだろう。いかれた雰囲気を持つ学者は少なくない。だから、奇妙な言動は学者やら発明家としての評価を高めることがあっても、減ずることにはならないと私は信じていた。

「とすると、アメリカのデパルマなんかが研究していたフリーエネルギーのようなものなんですか」

私はドクター中松にそう質問した。こういうフリーエネルギーだの宇宙エネルギー、真空エネルギーだのと言われるものには以前から興味があり、ライヒのオルゴンやらライヘンバッハのオド、そして東洋の気といったものとも関わり、これらはいずれ解明され、そのことが人類を救うことになるかもしれないと私は今でも思っていたりもする(そんなことはあり得ないないと一方では至って冷静に思っているんだが)。

ことによると、目の前のこのオヤジがその解明をやってのけたのかもしれず、とするなら、原発はすべて廃炉となり、それどころか、火力発電、水力発電さえいらなくなる。資源が限りなくある真空エネルギーによる簡易発電機を各家庭、各企業に設置すればよいのだ。無公害だから、環境問題も一挙に解決だ。

これで世界の経済構造はガラリと変わる。燃料としての石油や核燃料が必要なくなるのだから、資源を牛耳るアメリカを中心とした世界の経済構造は完全に崩壊する。環境を破壊して金を儲け、今度は環境保護でまた金を儲ける巨大企業も金儲けができなくなる。

このために、フリーエネルギーの開発者は命を狙われ、行方不明になっている研究者もいる(どこまで本当かはわからず、行方不明になっているとしても、資金が尽きて夜逃げしたり、金持ってトンズラした詐欺師といったところが真相だろうとやっぱり冷静に思っていたりもする)。

ところがドクター中松は、フリーエネルギーについて、こう言ってのけた。

そういうものについては私は聞いていない

これは、本人の発言通り。インタビューのテープは今も残っている。

 

 

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