松沢呉一のビバノン・ライフ

成長していく「ニューズウィーク」の埋め草記事—ドクター中松という珍発明[2]-[ビバノン循環湯 348] (松沢呉一) -5,026文字-

ドクター中松批判に回るまで—ドクター中松という珍発明[1]」の続きです。

 

 

 

テスラ賞受賞パーティで疑問が爆発

 

vivanon_sentenceこの少しあとで、テスラ賞受賞パーティなるものに出かけた。ドクター中松の講演があり、ノスタラダムスエンジン2は真空エネルギーを使ったものだと言い出し、私は唖然とした。

インタビューの際には、真空エネルギーのことをまったく知らなかったのに、わずかな間に、ノストラダムスエンジン2は真空エネルギーを使ったものになってしまった。そして、その後も、真空エネルギー、宇宙エネルギーといった言葉を使うようになっている。

私がしつこく聞いたものだから、あれから一所懸命に調べたのかもしれないが、もし本当に真空エネルギーを使ったものだとしたら、建物の中であっても、光が当っていなくても、作動しなければならないはずだ。ウソを言うにもほどがある。

会場には選挙公報にあった「ニューズウィークの世界12傑に日本人から唯一人選ばれ、その価値1時間1万ドルと評価」との話が掲載された当の「ニューズウィーク」が額に入れて飾ってあったのだが、これには笑わせていただいた。

私自身がそうであったのだが、恐らく多くの人が、「ニューズウィーク」が「世界の12傑」なるコンテストか何かやっていて、それに選ばれたと思っていることだろう。ところが、どこにも「十二傑」というようなものを読み取れる要素はない。

“Who Said Talk Was Cheap?”と題されたその記事は、タイトルからわかるように、いかに講演が金になるのかという内容で、60ワードにも満たない本文とリストが出ている埋め草記事的なもの。雑誌「ディズジャパン」(講談社)廃刊のきっかけとなったタレントや文化人の講演料の記事と同じようなものと思っていただいて間違いない。

リストには12人の名が並んでいて、これは、講演料がいくらくらいなのかを知らせるための単なる資料でしかない。念のために、12名の名を挙げておく。

 

ドナルド・レーガン(前大統領)、ナンシー・レーガン(前ファースト・レディ)、ポール・ハーヴェイ(ラジオ・コメンテイター)、オリヴァー・ノース(元海軍国家安全保証会議)、チャック・イェガー(最初に音速の壁を突破したパイロット)、ジョージ・ウィル(著名コラムニスト)、マイク・ディッカ(シカゴ・ベアーズのコーチ)、リー・アイアコッカ(クライスラー社長)、アル・ヘイグ(前国務長官)、ダニー・サリヴァン(レース・カー・ドライヴァー)、ロバート・バラード(タイタニック号発見者)、ドクター中松(フロッピーディスクを発明した「日本のエジソン」)

 

このメンツを見ても、その業績を評価して、世界から優れた人々を上から順に選び出したものではないことはすぐにわかる。それぞれ講演料が記載され、ドクター中松は、この中では最も安い講演料1万ドルとなっている。

このリストの下には、“SOURCES.INTERNATIONAL GROUP  OF AGENTS AND BUREAUS,INDIANAPOLIS SPEAKERS BRAU AND OTHERS”の文字があり、ここに記載された会社は、講演者を抱えるエージェントで、講演料の金額も、これらの会社が出している「定価」だから、[ニューズウィークが評価]したというようなものではない。

講演エージェントの定価でなく、実際にこれより高い講演料をとっている人など日本にいくらでもいて、世界の12傑に選ばれたドクター中松など、アグネス・チャンより劣る。

このリストにドクター中松が名を連ねた経緯はよくわからないが、その掲載順からしても、本人が言うほどアメリカで有名ではなく、「こんなチンケな人間が、講演で1万ドルもとる」という例として挙げられていると思われる。当然ここでは、「アメリカで講演してもらうなら」という前提のはずで、渡航費や滞在費を考えるなら、日本人の講演料が高くなるのは当然だ。

※後藤正彦著『永久機関の夢と現実―特許庁審判官の明かす永久機関の問題点(タネアカシ)!』は読んでないけど、面白そう。

 

 

成長していくハッタリ

 

vivanon_sentenceこの「ニューズウィーク」の話が最初にドクター中松の著書に現れるのは、1989年に発行された『ドクター中松 平成日本を診断する』(ビジネス社)の前書きだ。

 

 

アメリカの一流誌ニューズウィークの最新号(3月6日)は世界のベスト講演者十二傑を選んだ。(中略)これによると、私の話の価値は一時間あたり一三〇万円(本日のレート)。この本はテープにして二四時間分あるから三〇〇〇万円以上の価値があることになる。

 

 

この時点でも、「世界のベスト講演者十二傑」と創造的飛躍があるが、まだしも控えめだ。これが二年間で「ニューズウィーク誌の世界十二傑」とさらに飛躍して、「発明」は完成する。

たったこれだけの小さな記事を「世界十二傑」という話に飛躍させ、選挙公報に記載するのだ。「他にないんかね」とでも言いたくもなるが、海外のものの方がハッタリが効き、ばれにくいという計算は間違ってはいない。現にこれを多数のメディアが掲載しているのだから、「正しい」としか言いようがない。

ドクター中松が間違っていたのは、その原文を会場に飾ったことであり、この私が目にするとまでは計算していなかったことか。

 

 

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