松沢呉一のビバノン・ライフ

発明件数にはなんの根拠もない—ドクター中松という珍発明[3]-[ビバノン循環湯 349] (松沢呉一) -5,983文字-

成長していく「ニューズウィーク」の埋め草記事—ドクター中松という珍発明[2]」の続きです。

 

 

 

名誉市民というシャレ

 

vivanon_sentenceそれでもなお、「米国各市の名誉市民」「米国が法律でドクター中松記念日を制定」というくらいだから、アメリカではドクター中松は高く評価されているのではないかとも思うかもしれない。さっそくアメリカにいる知人に調査してもらった。

選挙公報には、名誉市民は十三の市州、記念日は九の州と市の名が挙げられているが、このうち、ニューオリンズ、セントルイス、ピッツバーグ、ニューヨークの四ヶ所を調べてもらった。そして、ここでもドクター中松の創造性は遺憾なく発揮されていることが判明した。

アメリカでは「名誉市民」「名誉大佐」「記念日」といったものが実に簡単に取れる。これらは、友好親善あるいはシャレや土産といった目的で制定されたもので、必ずしも、その業績を讃えるという意味合いのものではない。

確認できた例だが、アメリカでドラマのロケを行なった日本のテレビ・プロデューサーが「名誉大佐」の称号を得ている。これは現地のコーディネイターが土産として市長に申請したもので、ある程度の貢献と推薦文があれば難なく取れ、この場合の貢献とは、「その土地をロケに使うことで日本人観光客への宣伝になる」「ロケで金を落す」といったものであったという。

あるいは海外レコーディングをしただけで、「名誉市民」となったロックミュージシャンもいる。地元に経済的に貢献するか、知名度向上に貢献さえすれば誰でもOKなのだ。

「記念日」も「名誉市民」と同様のもので、親切なことには、その証明書まで発行してくれる。地域によっては少額の寄付金だけでも発行してくれ、新婚旅行などの記念にもなる。記念日の日付も自己申請できるため、誕生日を記念日にする人も多く、したがって、一年のうちのどの日であっても、その日を記念日とする人たちは何十何百という単位で存在する。

オウム真理教がダライラマからの親書なるものを公表しているが、よく読むと、寄付金に対する礼状である。文章はすでにできあがったものがあり、それにダライラマがサインしているだけだろう。私もまた一定金額を寄付すればたぶんもらえると思う。ドクター中松の名誉市民や記念日は、もっともっと寄付の金額も安くていいので、このチンケさはドクター中松らしくて憎めない。

念のため、ドクター中松は、いつ、何をどう貢献したとして申請し、誰が推薦人になっているのかを調べようとしたのだが、残念ながら、「ドクター中松記念日」に関する記録はどこにもなかった。というのも、これらの「名誉」は通常一年間のみの有効で、期限を過ぎると資料は破棄されてしまう。このことでも、記念日、名誉市民というのがどのくらい価値のあるもの、あるいはないものかよくわかる。

図版はドクター中松のサイトより。

 

 

うっかり公選法違反をやらかしたかも

 

vivanon_sentence「その程度のものを選挙公報に載せるな」と憤る方もいようが、何を載せようが勝手だ。この制度自体は州法なり市の条例なりで定められているのだから、「法律で制定」というのも間違いではない。「ドクター中松記念日」という法律条項があるかのように思ったのだとしたら、思った方が悪い。深読みである。

問題は期限が過ぎているのに、今も有効であるかのように記載したことだろう。これは虚偽。公選法違反の疑いあり。

また、都知事選の公報に記載されている「米国が法律でドクター中松記念日を制定」というのは正確ではない。これらの記念日等は連邦法で定められているのではない。本人もこれでは新間正次の二の舞だと思ったか、どこからかクレームがついたのか、その後の衆院選の選挙公報では「米国各州市が法律でドクター中松記念日を制定」に変えられている。これだって十分に大風呂敷で、正確には「米国各州市が法律で定めている制度に基づいて申請し、ドクター中松記念日が認められた」とでもすべきかと思う。

ドクター中松は賞が大好きで、膨大な数の賞を受けている。選挙公報には「アメリカ大統領賞」「ガンジー平和賞」「米国発明会議最高賞」「「国際著名人名誉殿堂」殿堂入第1号に選定」「韓国文化勲章及世界平和大賞」などなどとズラリと並んでいる。

ここにも相当の「発明」が入っていると思われるのだが、何分にも、邦訳しかわからないし、それを発行した団体名さえわからないために、調べるのが難しい。それに類した名称の賞を受賞していなかったとしても、「これは私の友人が作った賞だ」とでも言われてしまえば、決して虚偽にはならない。事実、そういったものも混じっている。

この困難の中、「米国発明会議」というのは、インベンターズ・クラブ・オブ・アメリカという団体であるらしきことが判明。ここのDr.アレギザンダー・マリアンチーノ委員長は、インターナショナル・ホール・オブ・フェイム(国際著名人名誉殿堂)の代表取締役でもあって、「ドクター中松とは友人だ」と述べており、「アメリカ大統領賞」もこの人物が推薦したと語っている。「米国発明会議最高賞」「国際著名人名誉殿堂殿堂入り」「アメリカ大統領賞」の三つまでが、ドクター中松の友人、マリアンチーノさんがからんでいることだけをここではお伝えしておこう。

なお、「韓国文化勲章」については、すでに調べた人がいるので引用しておく。

 

 

韓国文化院(韓国大使館の附属機関)にドクター中松が韓国文化勲章を受賞したというのは本当かどうか聞いてみた。答えは「そんな話は聞いたことがない」ということだった。

美少女漫画研究会ドクター中松調査班「ドクター中松小事典」より

 

 

※写真はドクター中松のFacebookより。この写真はもっともよく使用されているもの。ちょうど私がインタビューした頃のもので、本人は「この写真にも発明がある」と語っていたが、凡人にはわからん。

 

 

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