松沢呉一のビバノン・ライフ

売り専ボーイという仕事—ドキュメンタリー映画「売買ボーイズ」をめぐって[1]-(松沢呉一) -2,400文字-

 

「売買ボーイズ」の感想

 

vivanon_sentenceTOKYO AIDS WEEKS 2017で上映された売り専のドキュメンタリー「売買ボーイズ」 は超満員。私は全然わかっていなかったのですが、世界中の映画祭で上映されながら、日本ではこれが初めての上映だったんですね。

映画の感想はFacebookに書いた通りですが、これが日本での初上映だったのなら、もうちょっと丁寧に説明しておいた方がいい点がありそうなので、こちらでやっておきます。あんまり宣伝にはなりそうにないですが、今後観る機会があったら参考にしてください。

 

 

 

Facebookに書いた「売り専という言葉が意味する範囲に疑問あり」「二丁目の歴史的経緯についての説明に疑問あり」って点は、注を入れた方がいいにしても、さして重要ではなくて、それより私は映画として平板なために退屈してしまいました。二丁目という場所をもう少し立体的に描くとか、登場人物の誰かを深く突っ込むとかすればよりよかったと思います。

上映のあとのトークにも出ていたコウさんは元ボーイで、しゃべりもうまく、人としても魅力的に見えたので、彼を中心に映画を展開していけばよかったんじゃないかな。タックさんや洋ちゃん、ジャンジも魅力的ですけど、売り専からは離れてしまいます。

この彼です。

 

 

これは映画には使われなかったボツ映像ですが、こういう話を含めて、彼が見てきた、また、体験してきた「売り専」を中心に据えた方が全体を貫く柱がしっかりしたと思います。

 

 

海外でも好評価とは言いがたい事情

 

vivanon_sentenceタダで観たのに悪く言うのは気が退けるのでフォローをしておくと、これはスレている私の感想です。この映画を観た知人たちの評価は悪くなくて、「衝撃を受けた」と語る人もいましたので、とくに売り専を知らない人たちは、そのテーマだけで飽きずに最後まで観られるだろうと思います。

しかし、上映のあと、プロデューサーと出演者のトークで、海外で上映した際の反響について語られていて、多数の映画祭で上映されているわりに、「好意的な批評はなされなかった」という話が出てました。つまり、二丁目や売り専のことを知らないはずの人たちにも決して評判はよくないみたい。

そのことはこの映画のサイトで並べられた各メディアの評があまりに短いことでもわかりましょう。短い言葉しか抜き出せなかったのだろうと思います。

 

 

 

トークのパートでは、正直に批判や疑問の紹介もなされて、たしかアメリカでの上映だったと思いますが、「悲惨な例だけをピックアップしたのではないか」との疑問が出ていたとのこと。

 これに対しては「撮影した人の全員を出していて、選別はしていない」という説明がありました。顔を隠しても映画には出られない、出たくないというのは最初から取材を受けてないわけですから、その段階で選別はなされているとしても。

会場でそういった疑問があったと聞いた時、私はピンと来ませんでした。「ボーイたちはこんな感じだろな」と思っただけで、とくに悲惨という印象はなく、よってあえて選別したのだろうなんてことは考えもしませんでした。トークではそこまでの説明がなかったですが、おそらくこの疑問には意味があります。私もよくよく考えて気づきました。

 

 

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