松沢呉一のビバノン・ライフ

韓国では作れない映画—ドキュメンタリー映画「売買ボーイズ」をめぐって[3]-(松沢呉一) -2,741文字-

タイトルが誤解を生じさせた可能性—ドキュメンタリー映画「売買ボーイズ」をめぐって[2]」の続きです。これでおしまい。

 

 

 

韓国で上映したがる事情

 

vivanon_sentence韓国のGiantGirlsチームがこの映画を面白がり、韓国で「セックスワーク・フィルム・フェスティバル」をやりたいと考え、その場でプロデューサーに話を持ちかけていたのですが、その理由を翌日改めて聞きました。簡単な理由でした。

韓国では男同士のセックスワークも法で禁じられているため、こんなドキュメンタリーを撮ったら、店が特定されて摘発されてしまうのです。こういうドキュメンタリーが作られること自体に彼らは感激してました。

2004年に性売買特別法ができて以降、韓国の状況は相当悪い。「満23/169/73」上映のあとのトークでは、「警察のガサ入れがあった時に、コンドームが証拠になるため、コンドームを飲み込んだり、肛門や膣に入れる。そうしたところで、警察は口に手を入れて吐かせ、肛門や膣にも指を入れてくる」という話がGiantGirlsのメンバーから語られ、さすがにこの話にはゾッとしました。

規制によって、セックスワーカーの負担が増大し、店は店で摘発に伴うコスト分を稼ぐ必要があるので、店の取り分が増え、その分、ワーカーの取り分が減ったそうです。それまでは5割程度バックする店が多かったのが、今は4割程度に落ちている。

警察への賄賂もあって、非合法になると経営者側も金がかかるのが常です。「合法化、非犯罪化されると、単価が安くなって、稼げなくなるぞ」と脅す人たちがいますが、以前も説明したように、そんな簡単な話ではありません。セックスワークの価格とその配分はさまざまな要素が関わります。売防法施行時もそうだったように、摘発されないための対策費(日本では暴力団が介入してきたことが大きい)、あるいは摘発された時の蓄えを必要とするため、ワーカーの取り分が減ることがよくあるのです。とくに街娼は、自身が逮捕されるようになったので、リスク費が増大しました。

また、韓国では国内での労働を避けて海外に出るワーカーが激増したそうです。

法を肯定する側に立つ報告書は出されているのですが、この立場からは、生じた問題は「今後解決すべき課題」としてしかとらえられず、法が生み出した弊害という見方がなされないのです。

その立場から調査する団体が、オーストラリアで働く韓国人セックスワーカーの実情を知るために、スカーレットアライアンスに調査依頼をしたのですが、スカーレットアライアンスは、その意図には協力できないと断ったそうです。さすがです。

GiantGirlsも自身で報告書を出すほどの余力はない。

 

 

日本で奮闘することが他国へのサポートになる

 

vivanon_sentence法に反対する内容のものやセックスワーク肯定の出版物を出すと、反対派から版元に対しての攻撃が凄まじいらしい。議論をするのではなく、力で潰してくる。憲法では表現の自由が認められていても、民間の団体や個人が表現を妨害することをとめられない。

反対の意思表示はどんどんやればよく、そこから議論を深めていけばいいのですが、力づくの抗議については慎重であるべきなのです。

 

 

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