松沢呉一のビバノン・ライフ

女も男も抑圧されている—南智子インタビュー[4]-[ビバノン循環湯 355](松沢呉一) -4,042文字-

職業としての風俗嬢—南智子インタビュー[3]」の続きです。

 

 

 

これでいいんだと客が悟ることが嬉しい

 

vivanon_sentence「私としては、要するに、快感を求めていただけなんだけどね」と南さんは風俗嬢としての自分を振り返る。

「一般的な男の人の考えとか、世の中の倫理とかを取っ払って考えてみると、女の中から自然に出てくるものは、もっともっと全然違うものになるんじゃないのかな。でも、それは男の人にとってはものすごくショックな話だから、女たちもそれを出さないようにしているだけでさ。言わない方が利口なんだよ。言っちゃいけないんじゃないけど、言わない方が自分にとってもメリットがあるから自分を隠す。だから、今だって私も本当のことを言うことにためらう部分があるもん」

南さんでさえそうだったのか!

例えば「この男の前ではすべてを晒してもデメリットはない」と判断した時、あるいは「絶対にバレない」という確証が得られた時に、女たちがそりゃあもう大胆になったりする現場を見れば、南さんが言う意味はよくわかる。南さんがそうであるように、自分の欲望を満たせる場が風俗やAVといったような場しかない。だから、ここに人材が供給され、スケベであることが肯定される場で女らが晒す姿には、演技が入っていながらも、真実が見え隠れする。

頭では女性らが性欲を持つのは当たり前としながら、現実になると、拒絶してしまう男たちはまだまだ多く、性風俗においてはセックスが好きであること、セックスのテクニックを持っていることが求められるのに(素人臭さを演ずるというテクを含め)、自分の恋人や妻にはそれを求めない。妻は貞淑、それ以外では淫乱を求める。女たちはそれに迎合をするのが賢いのである。

しかし、自分をそのまま出すことができない女たちと同様、自分をそのまま出すことができず、出すことができるのが性風俗店だけである男たちを相手にしている分、南さんは「男も抑圧されている」という考え方をしばしばする。

「私は客に講釈して帰す。私の話を聞いたり、代々木忠さんの本とかビデオを見て、今までMっぽかったり、受け身でいたいことに引け目を感じていたけど、それでいいんだと開き直ることができたというのを聞くと、嬉しいよね」

女が受け身であることを脱しようとすると「女らしくない」と言われ、男が受け身でいようとすると「男らしくない」と言われる。同性からも異性からもだ。

 

 

自分を晒せる人が強い

 

vivanon_sentence「男の人って女の人みたいに差別されているって言うことも許されていない。そんなことを言うと、男らしくないと言われる。男同士の中でバカにされることをすっごく脅えているからさ。女はがめついから、フェミニストって、すごく権利主張するのに、男は柔順で我慢強い。男も女ももっと言うべきだよ。男性しか入れないクラブとか差別だとか言うけど、レディースディとかあっても男は怒らない。“そうか、しょうがないな”って諦めて帰るじゃない」

男社会の枠組が強すぎて、自分らが権利を奪われていることを自覚すること自体できないでいて、無自覚なままに、自分も同性の他者も異性の他者も抑圧する主体になる。これは迷惑なので、男たちももっと楽になった方がいいというのが南さんの考えだ。

と同時に、男にはガス抜きがさまざま準備されている。何もかもを犠牲にして仕事に打ち込んで出世するもよし、酒を飲んでクダ巻くのもよし、風俗店に行って射精するもよし、コレクションに走るもよし。こうすることで、男としてうまく管理され、いよいよ自分の性についての疑問を抱きにくいように飼い馴らされている。

むしろ、ここで悲惨なのは、この男文化からはずれていることを自覚してしまった男たちや女たちだ。

「女の人がより不当に差別されているところがあるんだろうけど、女の人も男を差別していると思うよ。体育会系の女って、男は自分より強くなければというのがあって、少しでも女の文化とされているものを男がやろうとすると総すかんになる。よく思うんだけど、一般的には男の快楽とされていないことでも、“自分はこれが好き。これで快感がある”って言える人って、この社会では、ものすごくふてぶてしい人なのよ。そんなことを知られたら自分は生きていけないと思い込んでいる弱い人は、絶対に外に出せず、今の社会で歓迎される強い男を演じてしまう。“世界中がなんと言っても、関係ねえ。オレはお尻に指を入れられるのが好きなんだ、Mとして受け身でやられるのが好きなんだ”と言えるのは、すごく強い人たちなんだよ。松沢さんでしょ、村崎百郎でしょ、浅草キッドでしょ。そんなん、ばっかり(笑)」

因みに私はお尻に指を入れられるのが好きなんじゃなくて、M系の中でも、奉仕係のマンコ担当。要するにクンニ好きで、「マンコがあれば、ご飯が3杯は食える」がモットー。

「人を人とも思わないくらいふてぶてしくて、あつかましくて、人の視線を恐れない人じゃないと自分の性についてそのまま語れない。人からどう見られるかを気にしたり、ちょっとでも繊細だったりすると言えないよ」

悪かったな、繊細じゃなくて。

「でも、ここでパラドックスが起きて、そういう人が本当に男らしいんだよ。それだけ自分に自信を持っているし、人がどう見ようと気にしないんだから。一般的に弱い、情けないと思われる部分を出せる男こそが男らしい時代なんだよ」

※漫画の原作は森園みるくと組むことが多かったのですね。そのため、村崎百郎とも懇意だったことを聞いたことがあったようにも思いますが、これを読み直すまで覚えてませんでした。今もはっきりは思い出せないし。

 

 

人は見たいものしか見えない

 

vivanon_sentence南さん自身、ここで語ってくれているようなことをライターに語っても理解されず、言ってもいないことを書かれてしまうことがあるという。

「いくらかみ砕いて話しても、インタビュアが、“はぁ?”って顔をしている。何を言っているのかわからないみたい。自分が理解できる範囲のところに私の話を押し込めてしまう。私みたいな存在は、彼らの理解を越えているのかも」

 

 

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