松沢呉一のビバノン・ライフ

「フェミニスト」を主語にするフェミニスト—「私」を主語にできない問題[5]-(松沢呉一) -3,262文字-

「私」で語れない女たちのフェミニズム的解釈—「私」を主語にできない問題[4]」の続きです。

 

 

 

「フェミニスト」を主語にするフェミニスト

 

vivanon_sentenceフェミニストであっても、「私」を主語にすべきところで「女」を主語にする人たちは少なくないし、時には「私」とすべきところで「フェミニスト」を主語にするフェミニストがいます。あたかも自分の意見がフェミニストを代表するかのように。

フェミニスト総体を批判されると「フェミニストは一枚岩ではない」としながら、一方で意味なくまとめてフェミニストを主語にする。自分は「フェミニスト」の一言でフェミニストをまとめていいけれど、他人がそれをやることは許さないってことです。

こういうダブルスタンダード、日本語で言えば二枚舌をしばしば人はやらかすものであり、たいていは無意識のうちになされます。「自分は特別」「自分がかわいい」という思いは誰しもあるわけですけど、それが強い人ほど、ダブスタに陥りやすいと言えますし、批判に向き合わずに逃げ、意見を言う場合にも主語を集団にして弱い自分をごまかす人もこれをやりそうです。

この国では家父長制に基づく道徳を守護し、制度内改革を求める人たちもまたフェミニストらしいので、一枚岩ではないことは歴然としていて、私もまた共感できるフェミニストと共感できないフェミニストがいると書いているように、「フェミニストは一枚岩ではない」という考えに同意しているのですが、その脇で「フェミニストは〜」と言い出すフェミニストがいて頭を抱えます。

南智子みたいに、自分の両足でちゃんと立って、「私」を主語にすれば、こういう二枚舌はある程度避けられるはずです。

もちろん、すべてをまとめて語れるケースもあるでしょうが、たとえば「フェミニストは売春を許しません」といった表現は正しくない。日本には売春を肯定するフェミニストが少ないのは事実ですけど、無視できるほどは少なくない。「多数派のフェミニスト」「主流派のフェミニスト」とするなら間違ってないかもしれないですけど、海外に目を向ければ、そのタイプのフェミニストは多数います。

「日本の多数派のフェミニスト」「日本の主流派のフェミニスト」と正しい主語を使って欲しいものです。あるいは「日本の糞フェミニスト」とまとめるのもよし。つうか、ここでもたいていは「私は売春を許しません」と言えばいいだけでしょう。

※以前も取り上げたFeminist For of Sex Workersのサイトより。このタイトルは「セックスワーカのためのフェミニスト」ですから、問題なし。一方、ここも時にフェミニストを主語にしていて、これはフェミニストはセックスワークに反対しているかのような言説に対するアンチでしょうけど、ちょっと気にならないではない。

 

 

「セックスワーク」という言葉を嫌うフェミニスト

 

vivanon_sentenceフェミニストと自認する人が意味のないところで「フェミニスト」を主語にする例は「ビバノン」にも出ています。たまたまこの間読み直して見つけたんですけど、「売春・風俗・セックスワーク」で取り上げている座談会で「フェミニストは“風俗”という言葉を使いません!」と宮淑子が発言してます。

宮さんは比較的セックスワークに柔軟な人であり、だからあの座談会にも来てくれたのですが、それでもこういうことを言ってしまいます(リンク先に書いているように、正確には座談会での発言ではなく、あとになって本人がゲラに加えてきたものです。これはルール違反ではありませんが、そのため、雑誌に掲載されるまで私は気づいていなかったはず。ゲラの段階で気づいても他者の発言内に踏み込まないのがルールなので、スルーするしかない)。

彼女はその代わりに「セックスワーク」という言葉を使用していたのですが、フェミニストの中には「セックスワーク」こそを嫌う人がいます。つい最近もそういう話を聞きました。講演会やシンポジウムのタイトルに「セックスワーク」「セックスワーカー」という言葉が入っていると横槍を入れてくる。いまなお労働として認めたくないため、「ワーク」の部分を拒絶するのです。サイテーの糞フェミです(糞はついてもフェミニストであることは認めているんですよ)。

こういう人たちは堂々とセックスワークの非犯罪化を掲げるアムネスティの方針にも反対し、文句をつけるべきですが、そんな強い相手は敵にしません。小心者めが。

 

 

 

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