松沢呉一のビバノン・ライフ

誤読の指摘を受け入れられない人々—本当に児童生徒の読解力は落ちているのか?[1]-(松沢呉一) -3,378文字-

 

 

興味のないことには触れない方針

 

vivanon_sentenceもともとその傾向はあったのですが、最近いよいよ世間一般の話題に興味がなくなっています。誰もが興味を持つことに私が興味を重ねて持つよりも、他の人が見ていないことに興味を抱いた方が私の存在意義が少しは見出せようかと思いますが、そもそも意義があるのかどうかにも興味がない。意義がなくても興味のあるものは追求します。

Facebookは常時開いてますが、数時間に一回メッセージをチェックし、その際にいくつか投稿を読むだけになってます。「ビバノン」のアカウントでは毎日投稿してますが、自分のアカウントでは本年に入ってから2回しか更新しておらず、しかも片方は「ビバノン」のことですから、自分のアカウントは死に体になりつつあります。

そうなるといよいよSNS的なものと距離が出てきて、「興味がないのに口を出す人たち」の弊害がよく見えます。興味があるなら時間をかけて調べることを厭わないはずです。十分に理解してから発言をすればいい。それをしたくないのなら興味がないってことでしかなく、黙っていればいい。それだけのことができない人たちがウザいです。

大晦日の深夜、つまり元旦になってすぐの恒例行事「下1グランプリ」のあとの初詣で、モダンフリークスの福田君が野球が好きだということが初めてわかった時の驚きをFacebookに書きましたが、自分の興味に従ってとことん追求しながら、そのことをペラペラとは口にしない。

おそらく彼だけでなく、そのジャンルに造詣が深く、愛情のある人で、軽卒な発言に満ちたSNSで何か言おうとは思わなくなっている人がいるんだろうと思います。

自分の趣味については別アカウントにしていて、そっちの方が自分のアカウントの何倍もフォロワーがいるのに、自分のアカウントではそのことを公開しておらず、ふだんも、聞かない限り、そのことに触れない知人がいます。その二つのアカウントが同一人物であることが知られてもメリットがないってことでしょうし、専用のアカウントをフォローしてくる人は知識も関心もある人だからいいとして、自分のアカウントでやると、知識も関心もない人までがコメントしてくるので面倒ってこともありそうです。知らない人なら無視できますが、知人だと無視はしにくい。

食いついてきた人の間違いを指摘しているとキリがなく、時には間違いを指摘する側が批判されるようなことまで起きますから、やってられない。

※横須賀歌麿呂脚本・主演、福田光睦監督の映画「やりまんハンター」の撮影風景

 

 

間違いの指摘に逆切れする人たちの心理

 

vivanon_sentence上のリンク先の「NYT記事「レイプ」「執行猶予付き判決」を誤訳した女性に、池内恵先生が誤訳を指摘したら、他の人達から噛み付かれまくってる」を読んで「ひでえな」と思いながらも、反応するためには原文を確認しておく必要があって、それが面倒でスルーしましたが、ここでリンクするために原文に照らして誤訳であることを確認しました。

 

 

 

 

解釈の幅、ニュアンスの違いというレベルではない誤訳なので、撤回すればいいだけだと思うんだけど、なんでこうなるんですかね。

 

 

「児童生徒の読解力が落ちている」という話題に対する疑問

 

vivanon_sentence可能性はみっつくらいありそう。ひとつは文章読解力の問題。

昨今、「子どもが文章を読めなくなっている」という話が出てますね。この話題は気になっていました。「昨今の子どもはバカだな」では済まない問題だろうと思いつつ、いくつか疑問があって、それを調べるまでには至らなかったため、触れずに来てしまったのですが、誤訳、誤読を認められない人たちのことの説明になるかもしれないと気づき、改めて取り上げることにしました。

この話の中心的な根拠になっているのは、国立情報学研究所の新井紀子教授らの調査です。新聞記事だけでは勘違いしてしまいそうですが、「デジタライゼーション時代 に求められる人材育成」を読むとわかるように、この調査は「過去に比して、日本の児童の読解力がどうなっているのか」を見るのが目的ではありません。

AIに負けない人材を作り出す教育とはどんなものなのかを見極めるための調査であり、「人がAIに負けない能力は意味を取り出す読解力である」「学業において読解力が成績を左右する」とは言えるとして、「児童生徒の読解力が過去に比して落ちている」までは言えそうにない。

中に書かれているように、同種の調査はなされたことがなく、10年前、30年前、50年前に同じようなテストをやった時にどうだったのかを知ることはできないのです。よって「現在こうだ」と言えるだけ。

 

 

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