松沢呉一のビバノン・ライフ

解決法は落ち着くこと(笑)—本当に児童生徒の読解力は落ちているのか?[2]-(松沢呉一) -3,292文字-

誤読の指摘を受け入れられない人々—本当に児童生徒の読解力は落ちているのか?」の続きです。

 

 

 

どんな人でも慌てれば間違える

 

vivanon_sentence結局のところ、読解力について前回の調査から読み取れるのは「児童生徒の文章読解力が劣化している可能性がある」ってことと同時に「人は慌てると文章読解力が落ちる可能性がある」ってことです。私には後者の可能性の方がずっと高いと思えます。現に私はそうなりますから。

全問公開されているわけではないので、全体としてどうなっているのか知ることはできませんけど、前回確認したように、知識が影響する問題が確実に混じっているので、学年別に調べたたところで、「学年が上がるとともに文章読解力が上がる」とも言えない。学年が上がると知識が増えるのですから、読解力だけの変化ではありません。

この調査で「読解力があるのかないのか」について正確に語ることはできないと思えます。議論の端緒にしかならない。

対して、10問を1分で答えさせた時と、同じ10問を10分で答えさせた時では正答率が違ってくることが容易に想像できます。大人であっても。

「所定の時間内でできるだけ多く答える」という条件だと、「間違ってもいいので、数をこなす」ってことになるに決まっているじゃないですか。

「時間がかかってもいいので、正答率を上げよ」という条件であれば、同じ人間でも答える姿勢は変化し、現に正答率は上がることが容易に想像できます。

「児童生徒の文章読解力が劣化している」という結論を出すためには条件が整っておらず、新たな調査方法も思いつかないですが、「人は慌てると読解力が落ちる」ということを確認するための調査はそう難しくない。何万人ものデータは必要がなく、数百人という単位で十分ですから、条件を変えたテストをしてみればいいだけです。つうか、実験するまでもなく明らかなのでは?

仮に条件を変えても正答率がさして変わらないのだとしたら、読解力が低下している可能性が強くなりそうですが、じっくり文章と向き合う習慣が欠落していることも関わっているのではないかと想像します。これまた本当にそうなのかどうかはわからないながら、簡単に言うと検討をする時間が十分あっても、そうしない人たちがいるかもしれないってことです。

※SSは2017年9月13日付「東京新聞」より

 

 

間違えやすい時代

 

vivanon_sentence今のところ、可能性にすぎないにもかかわらず、「生徒の文章読解力が落ちている」と一部メディアは断定して煽っていますが、「生徒の文章読解力が発揮されない場面が増えている」と危機感を煽ってもいいはずなのです。私にはこちらの方がずっとリアリティがありますし、社会に向けてのメッセージとして有意義です。大人もまたここから学ぶことができますから。

子どもだけでなく、大人も総じてつねに早く判断することが求められる社会になってきています。

20年30年という単位で見た時に、情報の選択肢は明らかに増えてます。地上派のテレビだけでなく、衛星放送が増え、ラジオもコミュニティ放送が増えました。そしてインターネットです。小学生だってネットをやる時代です。YouTubeも観てますしね。

多数の情報を処理するためにはスピードが求められます。SNSがもっともわかりやすいですが、多数の情報をこなすためにはひとつひとつを熟考してから反応していたのでは間に合わない。3日間調べ、考えてから反応した時にはすでに話題は終わってます。

「話題にいち早く反応すると、多くの反応が戻ってきて嬉しい」という行動になっている人たちは「間違ってもいいので、数をこなす」ということになりやすく、ここから「他人の書いたことをパクる」「デマを流して話題になる」という行動も出てきます。

そこまで至るのは一部として、文章を全部読まず、リンク先に飛ぶこともせずにわかった気になって、間違いだらけのコメントをするようになるんです。その結果、福田君みたいなタイプは嫌気が差し、正しい知識を持っている人たちはSNSに書き込む気がなくなる。

 

 

漫然と読書をしてもおそらく意味はない

 

vivanon_sentenceこの調査ではスマホの利用や読書時間と、読解力についての有為な関係は見出せていないということですので、ただ「スマホが悪い、パソコンが悪い、インターネットが悪い、読書はいい」と単純には言えないので、注意のこと。

有為な関係が見出せない理由も説明できますし、むしろこのことは「人は慌てると文章読解力が落ちる可能性がある」という仮説の方に合致しているように思えます。

 

 

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