松沢呉一のビバノン・ライフ

unwelcome(意に反して)をどう解釈するか—セクハラって何?[2]-(松沢呉一)-3,601文字-

EEOC(米雇用機会均等委員会)からカトリーヌ・ドヌーヴまで—セクハラって何?[1]」の続きです。

 

 

 

EEOCのガイドライン

 

vivanon_sentenceセクシュアルハラスメントという言葉と概念は1970年代から米国の大学を中心に浸透し始め、1980年、米雇用機会均等委員会(以下、EEOC/Equal  Employment Opportunity Commission)がガイドラインを出しています。

大学等で、それ以前から基準を定めていた例があったはずですが、広い対象でセクハラの定義をはっきりさせたものとしてはこれが最初のガイドラインかと思われ、セクハラを概説した本にはたいてい出ています。

これを踏まえたものが現在公的に使用されている各国のガイドラインになっていきます。

文言がいくらか違うものがあり、番号やマークのつけかたも違ったりするのですが、以下の文章が標準的なようです(この文章のオリジナルには番号がついておらず、わかりやすくするため、1から3までの数字はこちらでつけました)。

 

 

Unwelcome sexual advances, requests for sexual favors, and other verbal or physical conduct of a sexual nature, under any of the following conditions.

1.Submission to such conduct is made either explicitly or implicitly a term or condition of an individual’s employment

2.Submission to or rejection of such conduct by an individual is used as the basis for employment decisions affecting such individual

3.Such conduct has the purpose or effect of unreasonably interfering with an individual’s work performance or creating an intimidating, hostile or offensive working environment

 

 

この日本語訳は、どこがどこにかかるのかわからないものがよくあります。そこで、以前自分で訳したものを出しておきます。

 

相手が望んでいないのに言い寄る、性的な要求をする、その他、性的意味合いをもつ、言語的または肉体的な振る舞いは、以下の条件の時にセクシュアル・ハラスメントを構成する。

1.そのような行為に従うことが、明示的あるいは暗示的に、個人の雇用条件あるいは雇用待遇を作り出す時

2.そのような行為に従うこと、あるいは拒否することが、その個人に影響を与える雇用についての決定の基準にされる時

3.そのような行為が、個人の職務を不当に妨げ、脅迫的、敵対的、不快な仕事環境の形成を目的にしている時、あるいはそのような効果がある場合

 

 

すべて「個人」と明示されています。個人的法益のルールであることをまず確認しておきます。

 

 

「意に反して」をどうとらえるか

 

vivanon_sentenceEEOCのガイドラインで、解釈が分かれる言葉は冒頭の「Unwelcome」です。日本語では「意に反して」と訳されているものが多いかと思います。

この言葉から、「セクハラか否かは、された方が決定する」「された側がセクハラだと思ったらセクハラ」みたいなアバウトな解釈が導き出されていき、そうはっきり書いている大学や企業のガイドラインもあります。そんなもんであるならば、私は到底受け入れられない。

たしかに「本人が嫌がっている」ってことは絶対的な要件です。その個人の意思を確認もしないで、第三者が「セクハラだ」と騒ぐべきではありません。「性風俗はセクハラだ」とまで言い出したのがいましたからね。

これをやった瞬間に「意に反して」セクハラをする人間と同じところに立ちます。人はそれを受け入れるか否かを自身で決定していいのですし、自身でしか決定できません。第三者が他者の決定を否定してはならない。

行為者が、自分の行為が相手の意に反していることを知るためには、「明示的であれ、暗示的であれ、望んでいないことが外に表示されている」ってことが前提です。

人の内面について第三者は知ることができないのですから、外に表示して初めて意思だと認められ、表示された意思は尊重されなければならないというのがセクハラに関するルールの基本です。何かもやもやしたわかりにくいルールだと思っている人が多いのは、この前提を見失っているからですし、この前提を見失った「オレ様定義」をふりかざす人が多いからです。

本来は、「個人の意思表示を尊重しよう」という、いたってシンプルで普遍的なルールです。だから、この範囲では私はセクハラを防止し、それが行われた時には社内規則で処分するのも、損害賠償させるのも私は賛成だし、なんだったら刑事罰を課すことにさえ賛成するかもしれない(これは検討したことがなく、今勢いで書いただけです)。

※EEOC本部(たぶん)。ストリートビューより

 

 

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